◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
10日阪神5R新馬戦(芝1800メートル)でメイショウホーコン(牡2歳、父ハーツクライ、母メイショウベルーガ、栗東・池添兼)がデビューする。当初は夏の北海道デビューを目指していたが、態勢や番組的なそろばん、さらには北海道から栗東への移動で輸送熱があったりしたからようやくである。2カ月遅れになったが、同馬にとっては母への弔い合戦となる新馬戦だ。8月2日、母メイショウベルーガは16歳で天に召された。
「皮膚のがん」と伝えられている。馬におけるある種の「皮膚がん」は、芦毛が他の毛色に比べて高い発生頻度を示す。「悪性黒色腫(メラノーマ)」だ。色素産生細胞(メラノサイト)が「がん化」する病気。直接の死因となったかは別にして、晩年この病気と闘ったサラブレッドはシービークロス、オグリキャップ、エイシンバーリン、アドマイヤコジーンなどが知られる。いずれも芦毛だ。
もとより白い白毛と異なり、芦毛は鹿毛や栗毛の原毛色から、年齢に従って色が抜けていって灰色、白と変化する。芦毛遺伝子の直接の働きは、毛根部でメラノサイトの分裂速度を他の毛色よりも数段速くすることだ。細胞分裂は無尽蔵に繰り返すことができないので、芦毛では早期に色素細胞が枯渇する。色素が作れなくなると白くなる。
分裂速度が速いということは、それだけDNAのコピーにおいて“エラー”が生じやすいということでもある。大半のエラーは問題を生じないが、運悪くがん化のスイッチを押すエラーが生じると、がん細胞が発生する。芦毛の白い毛は、メラノーマのリスクという宿命を示している。
近年は毛色遺伝子との関係の研究がもう一歩進んでいる。芦毛遺伝子を父母の片方からのみ受け継ぐ場合(ヘテロ芦毛)より、父母双方から受け継ぐ場合(ホモ芦毛)の方がリスクが高い。これとは別に、原毛色として青毛を規定する遺伝子を持つと、芦毛遺伝子との相互作用でリスクが上がり、発症時の進行も速くなることが知られている。動物福祉の観点からは、芦毛同士や青毛と芦毛の交配を避けるなどの配慮が望ましい。
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