13日の月曜日、競馬ファンがザワつく“事件”が起きた。舞台は北海道・札幌――。同日夕方に放送された北海道ローカルのSTV「どさんこワイド」の名物コーナー「お絵かきですよ!」に、
池添謙一ジョッキーが生出演。本来は素人が参加する街角企画なのだが、なんとアナウンサーをはじめとしたスタジオ出演者は誰も池添の素性を知らないまま、単なる一般人として番組が進行してしまったのだ。
ちなみに参加を希望した10人の男性の中から抽選で1人だけ出演できたらしいのだが、池添は10分の1の確率を引き当てる勝負強さを発揮。「お名前は?」の質問にも「池添です」と淡々と返答してみせた。
当コーナーは描いた絵を生電話でつないだ友達が当てる
コンセプトのため「どなたにお電話しますか?」と聞かれると、「丸山さんです」と事もあろうに
札幌記念で戦う
丸山元気ジョッキー(
スティッフェリオ)を指名。池添の下手な絵を後輩・丸山がダメ出しして番組は大いに盛り上がり、まさか誰も
JRAの人気ジョッキー同士のやりとりだと知らずにコーナーは終了した。池添の素人離れした堂々たる立ち居振る舞いに、アナウンサーは「キャラクターの豊かな方で」と違和感を覚えていたようだが…。
番組終了直後、ネット上で「似てると思ったら本人でワロタ」「3冠ジョッキー気付かれず」「オルフェ(ーヴル)に乗ってるころなら気付かれた?」など、大騒ぎになったのは言うまでもない。
事件から2日後の15日、札幌競馬場で池添を直撃! すでにジョッキールームで周囲にイジられていた彼は「やっぱり(武)ユタカさんくらいじゃないと気付かれないですよね。でも、いい夏の思い出になりました」と満足げ。聞けば出演をゴリ押ししたのは、これまた
札幌記念に騎乗する勝浦正樹ジョッキー(
クロコスミア)だったとか。
一般人になりきって出演してしまう「度胸」と10分の1を引き当てる「勝負強さ」はまさに彼の真骨頂。改めて史上最年少3冠ジョッキー(32歳3か月)の肩書、
JRA重賞77勝のうち、GI23勝という大舞台に強い数字に納得がいった。
池添は「喜怒哀楽」を具現化したような男だ。敗れた後は感情をむき出しにして、記者を寄りつかせない空気を醸し出すこともある。
「勝ってナンボの世界だから、負けたら悔しい。仕事に関してはやっぱり感情が出ちゃいますね」
とはいえ、レース前から泰然自若の構えというわけではない。
「僕は緊張しいなんです。ジョッキーはみんな知ってますよ。レース前はピリピリしてますからね。でも、パドックで馬にまたがった瞬間に開き直れるんです」
話を聞けば聞くほど、
札幌記念を池添に託したくなってきた。
騎乗する
ナイトオブナイツは「気難しい部分がある」と言うが、クセの強い馬は池添のお手のもの。暴れ馬
オルフェーヴルの主戦だった経験はダテではない。
「
ドリームジャーニーもクセがあったし、20年もいろんな馬に乗せてもらって、引き出しは増えましたね」
そう言ってジョッキールームを引き揚げる彼に「レースで一番大切にしている心構えは?」と聞き、返ってきた答えで◎を打とうと決心した。
「常に自分が一番うまいと思ってレースに乗っています。気持ちだけは負けませんから」
この男、やはりただ者ではない…。
あの番組で出演者が感じていたこと。それこそがジョッキー池添だ。
(童顔のオッサン野郎・江川佳孝)
東京スポーツ