漫画家・福本伸行氏の作品にこんなセリフがある。
「麻雀ていうのは…水の入った洗面器に顔を突っ込んでるようなもんだと…その息苦しさに屈して顔を上げたほうが負けなんだ」
思えばこれはいま日本に強いられたコ
ロナ対策を暗示するかのようである。行政からの自粛要請にどこまで応えられるか。この地味で忍耐力のいる作業をチーム日本は求められている。戦術的には恐怖による支配が効果的かもしれないが、理想は自己犠牲を伴う他者への愛でウイルスと戦い抜く姿勢だろう。
奇跡的にも感染者が出ない
中央競馬は、綱渡りの興行が存続できている。感染リスクを抑えるため取材にも極力規制がなされているが、そこは自粛の時代である。公私とも洗面器から顔を上げない覚悟が我々にも問われている。
さて、自粛を求められる地味な作業という点でいま共感を得る馬こそ、GIII
京成杯を快勝し
皐月賞へと歩を進める
クリスタルブラックかもしれない。前走時も「投票ギリギリまで出否を迷った」と
高橋文雅調教師が語るように、無敗馬にあっても積極的アクションを起こせないジレンマを日々抱えて過ごしているのだ。
「まだキ甲は抜けていないし背中もペラッペラ。心臓だって若馬の域を出ていない。それでいて筋力がすごくて爆発的な脚を使うのが、この馬の現状なんだ。だからこそ追い切りや実戦での反動の見極めが、常にポイントになってくる」
指揮官が口にするのは、完成途上ゆえに抱える大きな希望と消えない不安。それでも放牧という名の前走後の自粛行為は、一方で確かな成果を上げていた。
「実はダービー前に東京を経験させる意味で、
共同通信杯を使うプランもあった。それでも我慢したかいはあったね。体に厚みが出て、ずいぶんと後ろが使える走りに変わってきた。今は強く負荷をかけた時に耐えられるように、まずはベースとなる部分を上げている段階。
皐月賞からダービーに向けて
ステップアップできると信じてね」
洗面器から顔を上げない覚悟を決めるのはトレーナーも同様だ。我慢の先に希望があると信じて…いまは誰もが前を向くべき時である。
(美浦の宴会自粛野郎・山村隆司)
東京スポーツ