多くの競馬ファンができるだけ詳細に知りたい情報のひとつが、当日の馬場傾向。さまざまなデータを駆使する近年の
競馬予想において、馬場の情報をいかに取り入れるかは大きなテーマでもある。
その一助となりそうなのが、
JRAが明日から発表する「クッション値」だ。これまで公開してきた含水率など馬場情報の新しい指標として、文字通り、馬場のクッション性を数値化したものだが、実際、どのようなものなのか。また、予想に影響を与えるような新たな指針となり得るだろうか。
JRAを直撃した。
【馬場の反発状態を数値化した新たな指標】
「クッション値とは、競走馬が走行時に芝馬場に着地した衝撃を受け止める際の反発具合を数値化したもののことです。さらにクッション値をもとに、『硬め・やや硬め・標準・やや軟らかめ・軟らかめ』とわかりやすい形で、5段階で分類したクッション性の評価基準も併せて掲載します。これによって、ファンの皆様は各競馬場における馬場の反発具合を知ることができます。クッション値は、現在
JRAのホームページ上で公表されている馬場情報のページに掲載される予定です」
このクッション値という数値は、大きければ大きいほど反発の大きい馬場状態=硬め馬場ということを示す。陸上競技場のトラックに使われているゴムチップ舗装であればクッション値は『22』、調教で使うウッドチップコースであればクッション値は『4』。ウッドチップコースの軟らかさは、反発が少なくタイムも出にくいクッション性ということがわかる。実際の馬場では『12』以上が硬め、『7』以下が軟らかめという評価基準になっている。
クッション値の計測地点は、ゴール前から4コーナーにかけての各ハロン地点で5箇所ずつ。その平均値を算出し、『クッション値』として公表する。路盤の水分量を測る含水率と異なり、測定する箇所は馬場の表層部分。つまり、含水率は路盤砂の軟らかさに関係してくる数値であるのに対し、クッション値は芝を含んだ計測値になるのだ。計測にはクレッグハンマーという専用の機器を用い、1回につき4回おもりを落下させ、その4回目の数値を当該箇所の測定値とする。
「展開にも左右されるので一概にはいえませんが、数値が高くなると馬場は『硬め』となるため、タイムは速くなる傾向にあります。もちろん、相手関係や展開など他の
ファクターも絡んでくるので確実なものではないですが、馬場を考えるための新しい要素としては機能するはずです。このクッション値から、新しい傾向などを見つけていただき、新しい予想
ファクターとして活用してもらえたらと思っています」
【予想の新たなエッセンスとして期待】
では実際、記者や予想家はこの「クッション値」とどのように向き合おうとしているのか。気になる疑問に答えてくれたのが、「穴の万哲」の異名をとるスポニチ・小田哲也記者と、若手の気鋭予想家・TARO氏だ。
「私が期待しているのは、調教のタイムがよりレース結果へと直結するような状態になるんじゃないか、ということです。ウッドチップはクッション値が『4』とのことですが、そこで好タイムが出せる馬がいれば、それに近いクッション値の日には好走する可能性が高まると思いませんか? いわゆる『調教番長』と呼ばれるタイプの馬のなかには、ウッドチップのクッション性が向いているから好タイムが出せている馬もいるはずです。そうした馬の狙うべきタイミングが、このクッション値公表によって明らかになるでしょう」
そう話してくれたのは、スポニチの小田記者。ウッドチップ調教では動きがイマイチでも、硬めの馬場では切れ味を発揮したりする馬もいるだけに、調教タイムが単純にレースに直結しないことは明らかだが、今後は調教と当日のクッション値、結果をチェックしていくことで、その相関関係を新しく作り上げることはできるはず。
「坂路コースの敷材にもウッドチップは使用されていますし、クッション値と調教の関わり合いは深いと思います。ただ坂路は計測距離などの関係もあって、短めが得意な馬が良いタイムを出すという点は気にしておきたいですね。あと気をつけたいのは、どんな馬場でも左右されない馬がいるという点。クッション値に気を取られていると、そうした馬を見逃してしまう危険性はあります」
一方、TARO氏は「現時点では何ともいえませんが」と前置きしたうえで、次のように語ってくれた。
「馬場状態を知るための判断材料のひとつにはなるかもしれません。例えば、ひと言で『差し有利の馬場』といってもディープ産駒のようなキレ味タイプではなく、
ハービンジャー産駒や
ノヴェリスト産駒といったパワフル系血統の差しが決まるような日もあります。そういった違いに、クッション値が影響を与えている可能性は否めません。今まで見えなかったものを解明していくためのヒントになるかもしれませんね」
これまでは、開催の前半なのか後半なのか、良馬場か重馬場か…といった限られた情報で類推して予想を進めるしかなかったが、今回のクッション値公表でガラリと変わる可能性は十分にありそうだ。
「例えば、今年の
宝塚記念では馬場自体は不良に近いのに発表は稍重だったりとか、不思議な馬場状態の日ってあるじゃないですか。『今日って本当に良馬場?』って思ったことも、馬場に着目しているファンであれば一度や二度ではないでしょう。そういう日の解明に、クッション値は役立つ可能性はあります。もちろん、
JRAの馬場発表が嘘だとは思っていなくて、大前提として自然を相手にしたことですから、ひと言で語りきれないのは当たり前のことだと思っています」
自分が得意な分野へ持ち込んで予想を強化していくのが正攻法で、クッション値においても脚質やペースを使用した予想に持ち込むのもよし、各馬の
パワーやスピードを使用した予想に持ち込むのもよし。正解にたどり着く道のりは無限なのが競馬の面白味でもあり、その面白さのエッセンスのひとつとなるのが「クッション値」になるはずだ。