中央競馬で、今開催から芝の『クッション値』が公表されるようになったのはご存じだろうか。クッション値とは馬場のクッション性を数値で示したもので、馬場状態をより詳しく知るためのひとつの目安。数値が高ければ硬めで反発力が高く、低ければ軟らかめで反発力も低い。馬場状態は、予想の重要な
ファクターになるもの。ファンが馬券戦略を組み立てる際、役に立つ数字と言えそうだ。
関係者にも導入を支持する声が多かった。
福永祐一騎手は「ファンにとっていいことだと思う。同じ良でも馬場状態は全然違う時があるしね」と語っていた。“硬めの良”か、または“軟らかめの良”で、好走する馬も変わる可能性がある。競馬は複数の要素を分析し、勝つ馬を推理するのが魅力のひとつ。私はヒントや情報が多い方が的中にたどり着きやすいと考えているので、数字で視覚化されるのは歓迎だ。
導入1週目となった先週(12、13日)は、中京競馬場で取材。発表されたクッション値は、金曜(午前9時測定)が「9・9」、土曜(同6時)が「9・6」、日曜(同6時)が「10・0」。土曜の数値の低下は、金曜に一時的に強い雨が降った影響だろう。金曜正午発表で良馬場だった芝は、土曜朝に稍重になっていた。
土曜の日中、中京は曇っていた時間もあったが、おおむね晴れ。徐々に馬場は乾き、芝は5R前に良発表となった。その5Rで勝利した
藤岡佑介騎手に話を聞くと、「前の日よりクッション値は軟らかめに出ていたと思うんですが、オール野芝で乗っている感じ以上に時計は出ていましたよ」ということだった。
ちなみに、芝の草種の違いでクッション値の傾向は異なる。洋芝は細い根が密集し、保水量も多くなることから低くなるが、野芝は保水量も少なく、数値が高くなることが多い。クッション値は、洋芝、野芝の違い、時間や天候で変化するもの。無論、1日の間でも変わる。12日の土曜は、芝で計6レースが行われ、翌朝には0・4高くなっていた。芝のレース数、天気によるデータの推移には、今後も注視していきたい。
数字の分析も重要な一方、前述した
藤岡佑介騎手のような関係者の“感覚”が、レースの鍵を握っているのも事実だ。その点で、
矢作芳人調教師の指摘が実に興味深かった。
「(クッション値は)投票が終わってから出るものだし、レース選択とは関係ないな。ただ、作戦に影響する可能性はある。時計が速くなりそうだから、前に行こうとかね」。
クッション値が高い時、低い時に好走する脚質、タイプがそれぞれ明らかになってくれば、関係者がそれに沿った戦略を組み立てるのは自然な流れ。今後のデータの推移によっては、レースの質が変化していく可能性もありそうだ。われわれが展開を予想する際にも、大きく影響する話だろう。
仕事柄、こうした事象を掘り下げていくのは嫌いではないが、ライトなファンや一般の方からすれば、少し複雑で難しいという声もあるかもしれない。実際、取材を進める中で、関係者から「今の良、稍重、重、不良という4種類しかない馬場状態を増やした方が、シンプルで分かりやすいのに」という意見があったのも事実だ。
確かに、今回新たに公表された情報は、どちらかと言えば、既に競馬の知識が十分なコアな競馬ファン寄りサービスなのかもしれない。ただ近年、JRAは積極的に新たな情報開示を続けており、今後もライトなファンを含め、さまざまな方のニーズに応えてくれるに違いないと期待している。
とにかく今は、クッション値という新たな情報を、有効に活用していきたいという気持ちが強い。一定の傾向が出るまでにある程度の時間を要すだろうが、いち早くつかみ、しっかりと予想や馬券に生かせるように、考察を続けたいと思う。このクッション値が競馬をさらに面白く、奥の深いものにしてくれることを願っている。
(デイリースポーツ・大西修平)
提供:デイリースポーツ