6日のチャンピオンズCは、
チュウワウィザードが待望のJRA・G1初制覇。ゴールの瞬間、私は“加藤君、ほんまにやってもうた!”と、胸が熱くなりました。
さかのぼること、あれは18年
有馬記念から3日後の12月26日。当時、
スマートレイアーを担当していた加藤助手からLINEが届いた。「応援ありがとうございました。大きなケガもなく、無事に牧場へ帰すことができました」。私はこう返信した。「次はチュウワで!」。彼も「頑張ります!」と気合が入っていた。
実は、あの
有馬記念のパドック。レイアーの横に彼の姿はなかった。それは、翌日の24日に行われた
名古屋グランプリに、担当馬の
チュウワウィザードがスタンバイしていたからだ。レイアーの思いも乗せたその一戦で、チュウワは期待に応える。重賞初挑戦ながらも、
ミツバやグリムを差し切り、見事に初タイトルを手にした。
その後、着実に力をつけた
チュウワウィザードは、昨年11月のJBCクラシックで待望のG1初制覇。今年1月の
川崎記念も制し、ダート界のトップをひた走る。だが、皆さんご存じの通り、同じカテゴリーには
クリソベリルという“怪物”が―。直近2走の
帝王賞とJBCクラシックでは、名手・ルメールを配しながらもともに完敗。加藤助手は「完膚なきまでにたたきのめされました」と、その胸中を吐露した。
一矢報いたい―。そう意気込んで迎えた、決戦前日。閉門間際の栗東坂路を駆け上がった
チュウワウィザードの姿は、はやりの言葉ではないが、まさに“全集中”。加藤助手も、鞍下の感触に手応えをつかんでいたようだ。「これで負けたら仕方がない、という感じです。レイアーが
京都大賞典を勝つ前もうなりを上げていたけど、まさにそんな感じの走りでした」。これは勝負になる。私もそう感じた。そして、あの完ぺきとも言える逆転劇。その驚きと感動は、冒頭に記した通りだ。
人馬ともに、これが待望のJRA・G1初制覇。チャンピオンズCのレース後、加藤君と少し話をした。「結局、レイアーにはG1を勝たせてあげられませんでした。あれから、馬について結構勉強をして…。それはたぶん、みんないろいろと研究しているなかで、自分がしてこなかっただけなんです。今回、こうして勝利につながってよかったです」
ふと思った。戦いを終え、北海道へと旅立つレイアーの後ろ姿を見送りながら、加藤君は何を思っていたのだろうか?無事に牧場へ帰すことができた安堵感はもちろんのこと、それ以上に、G1を獲らせてあげられなかった悔しさが込み上げていたんだろうな、と。
もう一度、自分を見つめ直し、原点に戻って再起。努力を重ねてはい上がり、怪物を破ってついに頂点まで上り詰めた。レイアーの悔しさを糧に奮起した加藤君の“執念”に感動した次第。そして何より、彼の熱意に応えた
チュウワウィザードの力走に拍手を送りたい。(デイリースポーツ・松浦孝司)
提供:デイリースポーツ