長谷川厩舎に開業初の
JRA重賞タイトルをもたらしてくれたのは
ナムラクレアでした。
長谷川浩大調教師にとって“師匠”でもあった中村均元調教師からバトンを託された「ゆかりの血統」。やはり競馬はドラマだと思わずにはいられません。
「兄の
ナムラヘイハチローと
ナムラムツゴローは調教助手時代にもずっと見てきた馬なので、この血統で重賞を勝てたのはそりゃあ〜うれしかったですよ」と長谷川調教師。
ナムラクレアをオーナーさんに頼まれたのは彼女が1歳のころだったそうで「ヘイハチローよりもムツゴローに似ているなと思いました。尻高なところとか、体形とか。でも、それよりも印象的だったのは並足のきれいさ。これは兄と比べても完成度が高いなと」。
第一印象からいいものを感じていたそうですが、実際に乗ってみて確信に変わったんですって。
「見ただけで分かれば一番いいんでしょうけど、僕はジョッキー上がりだし、普段からずっと馬に乗っていますからね。入厩前に乗らせてもらった時に、身のこなしの柔らかさ、トモの可動域の広さに驚きました。これはちょっとモノが違うなって思いましたね」
私は中村均厩舎から引き続き、長谷川厩舎も担当させていただいているのですが、2戦目に
フェニックス賞を使った時のことが印象的です。なぜなら翌日には同じ小倉芝1200メートルの未勝利戦が組まれていたから。
ナムラクレアの新馬戦は勝ち馬に0秒7離された3着。
フェニックス賞に格上挑戦するよりは、未勝利戦を使うほうが現実的かなと思っていたんです。長谷川調教師も当時はギリギリまで悩んでいる様子でした。
「“まず1勝”と考えれば普通は未勝利戦を使う。でも、あの時は週末に天気が大崩れする予報があって、土曜のほうがまだマシっぽかったんですよ。それにメンバーを見て“クレアがここに入っても絶対見劣らない”とも思っていました。結果的に予報は土曜と日曜が真逆になってしまったんですけどね(笑)」
そう、
フェニックス賞は
アメンボなら大喜びしそうな超不良馬場。しかも、ゲートで長い間待たされるシーンも…。
「普通なら気がめいりますよ。でも、クレアは途中で観念したように落ち着いたというか、逆に落ち着き過ぎて出遅れてしまった。そこからすぐにリカバリーして、ドボドボの馬場にも耐えて…。使うからには勝たなきゃいけないレースだったので心底ホッとしました」
格上のオープンで驚異の気持ちの強さを見せ、見事勝ち切った
ナムラクレアでしたが、小倉2歳Sでは4番人気の評価にとどまりました。
「速い時計に対応できるかが分かりませんでしたからね。それにメンバーも強かった。もちろん、僕自身は期待して送り出しましたけど」
長谷川調教師の期待通り、小倉2歳Sでは速い時計に対応し、大外を回りながらも上がり最速の脚を繰り出してくれました。特に横一列になった馬群から抜けてくる時の脚は素晴らしく、彼女の持つ力が証明されたレースだったと思います。
「普段はかわいい女の子って感じなんですが、怒らせるとかなり怖くて、我の強いところもあります。それが実戦に行っていいほうに向いている感じ。折り合いに不安はないし、すぐにスピードに乗れるから、位置も取りに行けます。同世代の中では完成度が高いと思いますが、まだまだ伸びシロも感じていますよ」
彼女にかける期待を語ってくれた長谷川調教師は今回のGIII
ファンタジーS(6日=阪神芝内1400メートル)も「絶対に負けたくない」と力強い言葉で締めてくれました。
この血統を知り尽くしている長谷川調教師の元で鍛え上げられてきたからこそ、現状出せる能力を全て出し尽くすレースができるはず。
ナムラクレアには10年、20年後にも語られるような厩舎を代表する馬になってほしいです!
(赤城真理子)
東京スポーツ