まばゆいほどのスポッ
トライトを浴びて、セコンドやトレーナーを引き連れ、熱狂する観客の間を割るように闊歩して闘いのリングへ――。
ボクシングの世界戦でよく見るシーンだ。元ボクサーとはいえ、世界レベルにはほど遠かった当方にそのような経験は当然ない。が、想像はできる。あの独特な熱気の中で自身の
テンションを一段上げて超戦闘モードに持っていく。そんな大事な過程なのだろう。
ボクシングの入場シーンは、競馬でいえば「パドックから返し馬まで」が当てはまろうか。ただ、自分で
テンションをコントロールできるボクサー(人)と違って、競馬の主役は馬だ。
テンションが上がり過ぎて、制御不能な戦闘モードに入るのはご法度。必要以上に
テンションを上げないようにレースまでもっていくことが必要になる。
その際に関係者がよく口にするキーワードが「地下馬道」。厩舎からパドック、馬場を地下でつなぐ馬道のことを示す。
「閉塞感があるのはもちろん、音が反響したりで…。下り坂があるのも良くないですね。そこで変に勢いがついたり、気負ったりして、リズムを崩すこともあるので」(某厩舎関係者)
そう、地下馬道をいかにスムーズにクリアするかは非常に大事なポイントなのである。前置きが長くなったが、
エリザベス女王杯(14日=阪神芝内2200メートル)に出走する
テルツェットは、まさにこの部分が近2走の明暗を見事なまでに分けた。
「
ヴィクトリアマイル(14着)は
テンションが高めで、いい精神状態で走れなかった。対して
クイーンS(1着)はイレ込み対策をしてきたし、地下馬道がなくてパドックから馬場が近いのも良かった」(
和田正一郎調教師)
テルツェットにとっても「地下馬道」は大きなハードル。「阪神は地下馬道が長いので…。そこをどうこなすかですね」と決戦の舞台には“難敵”が立ちはだかる。
ヴィクトリアマイルの二の舞いになる事態を避けるために、レース当日は馬場への先出し、コース入りギリギリでジョッキー(
M.デムーロ)を騎乗させるなどの対策を取るようだ。
牝馬トップクラスの力はキャリアが示している。いかに興奮を抑え、平常心で臨めるか。そこさえクリアできれば…。
「ここ目標に順調に調整できている。初めての距離なので何とも言えない部分はあるけど、前回は折り合いもついていたし、あの感じなら大丈夫なのではないでしょうか」
祖
母ラヴズオンリーミーは
ラヴズオンリーユーの母。つまり、先日のBCフィリー&メアターフを制した「世界最強馬」と叔母と姪の関係という旬の血統馬が、パドックから馬場入り、そして返し馬からゲート裏まで、地下馬道を無事にクリアして落ち着き払った姿を見せているようなら…間違いなく“買い”の
サインなのである。
(美浦の両刀野郎・山口心平)
東京スポーツ