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迷い続けたスカーレットカラー 最後に魅せた意地の4着

デイリースポーツ
  • 2021年11月16日(火) 18時25分
 豪華メンバーが顔をそろえた昨年のマイルCS。最後の直線の攻防は非常に見ごたえがあった。先に抜け出したアドマイヤマーズを盾にして、連覇を狙う福永&インディチャンプグランアレグリアの進路を絞る。それでも、名手・ルメールは冷静だった。ひと呼吸置いてセーフティーな外に持ち出すと、きれいに抜け出してV。マイル女王に新たな勲章をもたらした。

 実力馬が人気通りに力を示したあの一戦。穴党にとって唯一、シビれたシーンは直線でインから迫ったスカーレットカラーの奮闘ではないか。単勝187・8倍の13番人気。最後は力及ばず4着に敗れたが、それでも彼女の末脚を信じたファンは、手に汗握ったことだろう。

 何よりも彼女の一番の信者は、調教担当の喜多亮介助手(高橋亮厩舎)だ。カラーの背には、デビュー6戦目のチューリップ賞(7着)からまたがってきた。夏の段階で既にラストランと決まっていたあのマイルCSを振り返り、「迷い続けた競走馬人生でしたね。それでも、最後だけは迷わずに戦うことができました」とすがすがしい表情を見せた。

 迷いとは何か?まずは馬体重だ。438キロでデビューしたカラーは、引退時には490キロにまで成長した。その道中の増減の激しさが陣営の迷いを表している。「環境が違う札幌では全くカイバを食べなかったので、2年続けて数字が減ったクイーンSは参考外ですが、有馬記念は距離を考えて意識的に絞りました。結果的に、あの調整は裏目に出ましたね。いろいろと試行錯誤しましたが、最終的にカラーの場合は“体重じゃない”ってことに気づきました。ラストランの490キロは、あの馬のベストだったと思います」。

 そして距離。芝1400メートルでデビューしたが、4歳暮れに有馬記念(芝2500メートル)へ挑戦した。「距離はある程度こなせそうな感じはしました。結果として、さすがに有馬記念は長かったけど、天皇賞・秋の2000メートルはこなせると思いました。でも、ラストは止まってしまいましたね。やはりマイルがベストでした」。

 快進撃が始まったのは、4歳夏のパールSから。岩田康とのコンビ再結成が転機となり、潜在能力が引き出された。喜多の胸を熱くしたのはラストイヤーの夏。「ヴィクトリアマイルの時、岩田さんはケガで乗れなくなったのですが、手綱を託された石橋脩さんに毎日電話を入れて、馬の特徴を伝えてくれていたそうです。有り難かったですね。15着に敗れはしましたが、あれは石橋さんの騎乗がどうこうではありません。テン乗りで結果を出すのはすごく難しい馬ですし、ましてG1では仕方がありません」。

 次戦のクイーンSも思い出深い一戦だ。1番人気の支持を受けたが、直線内で包まれて行き場を失い、脚を余して3着に敗れた。「レース後の検量室で、岩田さんは人目もはばからず涙されていました。僕自身も悔しかったし、みんな岩田さんと同じ思いでカラーに携わっていました。もっと勝てる、もっとできる、と思ってやっていましたが、なかなか思うようにはいきませんでした」。

 結果が出なければ、気持ちに余裕がなくなり、チャレンジをためらうこともある。それでも前を向いて戦えたのは、前田幸治オーナーの理解があったからこそだと喜多は言う。「最後の秋も、普通なら府中牝馬S富士Sを使ってマイルCSへ向かうのがセオリーですが、オーナーはカラーの力を信じてくれました。無難に行けば、G3を勝つことはできたでしょう。でも僕らの思いは違いましたから。天皇賞・秋に挑む際は、岩田さんも他の騎乗依頼を全部断ってカラーに乗るといってくれた。強いところで勝負できたのは、オーナーのご理解のおかげです」。恐らく、会員制クラブの馬では簡単には勝負をさせてもらえないだろう。喜多が言う“迷わず”の意味に歩み寄れた気がした。

 陣営自らがハードルを上げた分、当然のように目標達成率は下がった。結果として、カラーのタイトル獲得は19年府中牝馬Sの1つだけだ。それでも、陣営はあえて高みを目指した。そしてラストランは、喜多にとって納得のいくレースとなった。「“G3、G2止まりの馬”と思われていたと思いますが、かみ合えばG1でもやれると信じていました。いろんな経験を重ねて、最後の集大成をマイルCSに定めることにも迷いはなかったです。あれだけの強豪相手に、内から一瞬、先頭に躍り出た時には、カラーの意地を見ることができました。比較的外が伸びる馬場状態でしたが、岩田さんもあえてコースロスのないインを突いて勝負してくれた。最高の競馬でした。最後に全力を出し切ってくれました」。

 馬券を買って応援していたファンの中には痛恨の4着となった方もおられるだろう。それでも、喜多の話を聞く限り、ラストランのカラーは全能力を出し切った。あれ以上を望むのは酷であり、大健闘をたたえるべきだと私は思う。「なかなかああいう脚質で、しまいドカンとはじける馬にはお目にかかれません。今では珍しい個性派タイプ。その分、答えを出すのが難しかったです。すごく勉強になりましたね。今思えば、もっとたくさん勝てたと思うし、もっとファンに愛された馬になっていたと思う。すごく悔いが残るし、あの時の経験を今後に生かさなければならないと思っています」。

 ラストランを終えたカラーは、年越しを待たずしてコントレイルの半姉アナスタシオとともに米国へ渡り、繁殖生活へ。今は米3冠馬アメリカンファラオの子をおなかに宿しているそうだ。

 あの戦いから、はや一年-。人も馬も、それぞれが新たな時を刻んでいるが、あの時の一体感は大きな経験となって生き続ける。高橋亮厩舎の屋台骨を支えた彼女のスピリッツは、きっと後世に受け継がれていくことだろう。 (デイリースポーツ・松浦孝司)※敬称略

提供:デイリースポーツ

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