競馬を心から愛し、ファンを何よりも大事にしてきた森中蕃(もりなか・しげる)オーナーが10月17日、天国に旅立った。馬名が並ぶなかで、ひときわ目立つ冠名の「
シゲル」。何度も取材をさせていただき、思い出は尽きない。
役職名、動物の名前など毎年、いろいろな馬名シリーズで注目を集めてきたが、何百頭もの馬名をつけていると、さすがに息詰まってきたという。ある日、「馬名シリーズで、何かいいのが思いついたら教えてください」とアイデアを求められた。
採用されたら光栄と思って、私は案を送り続けた。中華料理シリーズは「
シゲルラーメン、
シゲルチャーシューなんて名前では走るはずがない。
シゲルギョーザはセンスがなさ過ぎる」と一喝。
シゲルカブトムシ、
シゲルアゲハチョウなどの昆虫シリーズは「普通で面白くない」。自信作のはずだった花言葉シリーズ。だが、
シゲルトワノアイ(
キキョウから)、
シゲルハジライ(
シャクヤクから)、
シゲルコイウラナイ(マーガレットから)などについては、無言だった。
そんな私を見かねたのか、2022年の2歳馬はスポーツ報知の読者からの応募ハガキから採用してもらえた。懐の深さに感謝。「いい名前がいっぱいあったね」と昨秋、うれしそうにハガキの山を見つめていたのを思い出す。10月22日に世代初勝利となった
シゲルスナイパー(牡2歳、栗東・
谷潔厩舎、父
モーリス)。きっと空高くから、これからも森中蕃オーナーはニコニコして応援し続けるだろう。
ちなみに特に思い出に残る1頭として、いつも話していたのが
シゲルスダチ(果物シリーズ)だ。2012年の
NHKマイルCでは直線で転倒し、騎手の方へと歩み寄って気遣うようなしぐさを見せたことに、多くの反響があった。10年が過ぎても、「あのときは本当に感動しました。ファンからメッセージも多く届きました」と語っていた。人と馬の心が通じ合ったかのような場面は、森中オーナーの優しさが馬に伝わって生まれたのかもしれない。
そして、
シゲルファンノユメのエピソードも印象的。以前、ファンの方が空港で森中オーナーと一緒になり、あふれる
シゲル愛と馬名のアイデアを伝えたところ、オーナーは「いいですね。その名前、つけますよ」。約束通り
シゲルファンノユメと名づけた。芝の短距離で2勝を挙げ、奮闘を続ける
ディーマジェスティ産駒に「いい名前でしょう。夢はいつまでも続く。そう思いますよ」と今年もうれしそうに話していた。
オーナーは北島三郎さんの歌で「歩」が大好きだった。「歌詞に『歩には歩なりの意地がある いつかと金で大あばれ』。競馬もそうでないといけません」といつも言っていて、雑草のようにたくましい
シゲル馬が下馬評を覆して走るのは痛快だった。
本当にありがとうございます。オーナーが残した
シゲル馬、その夢の続きを、これからも見ていきたいと思います。(報知新聞社・内尾 篤嗣)
スポーツ報知