先週の
エリザベス女王杯は、大外から力強く抜け出した
ジェラルディーナが優勝。G1・7勝を挙げた名牝
ジェンティルドンナを母に持つ良血馬が、素質開花を思わせる勝ちっぷりで待望のG1タイトルを手にした。
レース後に斉藤崇師は「一戦ごとに体重も増えて、たくましくなってきた」と愛馬の成長ぶりを喜び、「やっとG1を勝てた。これから先も“もっともっと”と思っています」とさらなる飛躍に期待する。競馬ファンとしても、今後どこまで上り詰めるのか楽しみなところだろう。
個人的には過去の
エリザベス女王杯勝ち馬の中でも特に印象に残っているのが、19、20年の同レースを連覇した
ラッキーライラックだ。同世代の牝馬には日本競馬史上初の芝G1・9勝の快挙を成し挙げた
アーモンドアイ、20年
香港Cを制した
ノームコア、20年
有馬記念2着の
サラキアなど強敵ぞろい。1つ下の世代にも21年ブ
リーダーズCフィリー&メアターフや
香港Cなどを制するなど海外でも大活躍した
ラヴズオンリーユーに、春秋
グランプリを3連覇した
クロノジェネシスがいた。
アーモンドアイをのぞく4頭は、どちらかの年に対戦して見事に撃破。いずれの牝馬たちもG1の舞台で牡馬と対等以上の走りを見せていたのだから、なおさらその強さは際立っている。
改めて“強い牝馬”とは何か。それを確認しようと、
ラッキーライラックを担当していた丸内永舟助手に質問を投げかけた。個人的には筋肉の質や骨格、フォームの差異といったものが返ってくるかと思ったが、答えはシンプルだった。「気にしなくていいことかな。どんと構えている。動じないこと」と、第一にメンタル面の強さを挙げた。走破時計の速さなどを基本とした走力の高さは大前提であるとしつつ、「カイ食いに不安がない、馬群の中でも競馬ができるようになるとか。毎朝の調教を嫌がらないのも大事な要素」と具体例を挙げて説明してくれた。
実際に新馬戦から無傷の3連勝で阪神JFを制すなど、早い時期から活躍した
ラッキーライラックも、ある時期までは牝馬らしい繊細さが目立っていたという。「厩舎に人がいると、気にしてカイバを全然食べなかった。年を取るごとに繊細過ぎるところがなくなったというか、ある程度のことは彼女の中で納得できるようになっていった」と成長していった過程を振り返る。
牡牝の違いについても面白い示唆をくれた。「牝馬はうそをつかない。嫌なものは嫌っていう。逆に男馬はうそをつくよね。調教が良くても競馬だと走らないっていうのは男馬が多いかな。あと、芯の強さも牝馬の方。突然、馬群の中から突き抜けたり、ここ一番は牝馬な気がする。母は強しっていうしね」と
ニコリと笑う。
いわゆる、本格化の過程については「馬が加齢とともに覚えてくることがある。大丈夫って。年を取っても、“牝馬だから調教を手控える”とかっていうのは、それまでの馬なのかもしれない。だからこそ、こちらがどう向き合って成長させていくかが大事」と、馬に携わる仕事人としての視点から熱っぽく語ってくれた。
ちなみに
ラッキーライラックが20年の
大阪杯を勝った時には、「冗談っぽくだったけど、周りの人から同じ斤量はずるいって言われたよ」と懐かしそうに笑った丸内助手。今年の
エリザベス女王杯を勝った
ジェラルディーナ、そして上位に食い込んだ強い牝馬たちも、いずれそんな“ヤジ”を飛ばされることになるのか、楽しみだ。(島田敬将)
提供:デイリースポーツ