令和初にしてNPB史上、最年少の「三冠王」に輝いた
ヤクルトスワローズの村上宗隆。プロ入り5年目にして国内最強打者に上り詰めたと言ってもいい彼だが、いわゆるドラフト「外れ1位」からのプロ入りだったことはよく知られている。
彼の世代には小学生のころからその名をとどろかせていた清宮幸太郎が「最強スラッガー」として君臨し、村上は知る人ぞ知る、どちらかといえば陰に隠れた存在。ゆえにドラフトでも7球団から1位指名を受けた清宮の後塵を拝したわけだが、プロ入り後の力関係はご存じの通り。見事に大逆転を果たした。
前置きが長くなってしまったが、
ジャパンカップ(27日=東京芝2400メートル)で初のGI戴冠を目指す
ヴェルトライゼンデも、同世代同路線に存在した「無敗の三冠馬」
コントレイルの陰に隠れ、辛酸をなめていたクチだ。
初の直接対決となった2歳暮れの
ホープフルSからクラシック最終戦・
菊花賞まで計5戦で顔を合わせた2頭だが、軍配はすべて
コントレイルに。その後、自身には屈腱炎による長期休養を余儀なくされた時期があったうえに、
コントレイルは昨年の
ジャパンCで有終の美を飾りターフを去ったことで、
ヴェルトライゼンデがその高い壁を越える機会が再び訪れることはなかった。
ヴェルトライゼンデの調教パートナーを務める橋口助手は2015年のダービー2着馬
サトノラーゼンを始め、これまで数々の素質馬を手がけた敏腕助手だ。その彼をして「上には上がいるんやなと思いましたね」と言わしめるほど才能あふれる
ヴェルトライゼンデには前述通り、一旦は表舞台から姿を消してしまった時期がある。その類いまれな才能はこのまま埋もれてしまうのかと心配されたものだが…。
1年4か月ぶりの復帰戦となった今年6月の
鳴尾記念で、我々の度肝を抜くことになる。ブランクをまったく感じさせない鮮やかな末脚で並み居る強豪を一蹴してみせたのだ。その雄姿は基本性能に衰えがないどころか、むしろ
バージョンアップして帰ってきた印象を与えるほどだった。
「レーン騎手の手腕もあったと思いますけどね。こんなに切れる馬だったんだ…って改めてこの馬の能力を再認識した」
鳴尾記念の快勝をそう振り返った橋口助手はこう言葉を続けた。
「もともと、いい馬ではありましたが、
鳴尾記念で復帰した時はそれまでのしなやかさを維持しながらも、馬体にボリュームが出て馬に力がついた感じもありました。休んでいた期間に牧場が屈腱炎のケアだけでなく、基礎からつくり直してくれたことで成長して帰ってきてくれたのでしょう」
この
鳴尾記念こそが
ヴェルトライゼンデの馬生にとってのターニングポイント? いやいや、当時、手綱を取ったレーンが再び騎乗するこの
ジャパンCこそが真のターニングポイントになるのかもしれない。
実は先週の
マイルCSにもう一頭の担当馬
ソウルラッシュを出走させていた橋口助手は「仕掛けどころも抜群だったし、本当に素晴らしい騎乗ぶりでした」と
セリフォスを見事に優勝に導いたレーンの手腕を絶賛。そう、敵に回せば厄介だが、味方にすれば、これほど心強い存在はない。そして
ヴェルトライゼンデの1週前追い切りで久々に感触を確かめたレーンも「春よりも動きがシャープになっている」と好感触を伝えてきたとなれば…。
最高のパートナーを再び得て、過去最高の状態で初のGI戴冠に挑む
ヴェルトライゼンデ。昨年の覇者
コントレイルをも超える衝撃の走りを見せてくれることを期待せずにはいられない。
(元広告営業マン野郎・鈴木邦宏)
東京スポーツ