◆第74回
朝日杯FS・G1(12月18日、阪神競馬場・芝1600メートル)
第74回朝日杯フューチュリティS(18日、阪神)に
ウメムスビを出走させる細川陽介オーナー(40)は、本業が梅干しの製造・販売業という異色のオーナーだ。馬主活動を始めてまだ約8か月。しかも初めて購入し、現在も1頭のみの所有馬でG1出走の快挙を成し遂げる。
馬主業1年目、所有馬1頭でのG1参戦。この偉業に最も驚いているのは、細川氏自身だという。
「小学校の頃に『ダービースタリオン』で競馬に親しみ始め、今では家族と家業を巻き込んでいます。(1着の前走)
カンナSはうれしさと感動で訳が分からず、妻は泣きました。ある意味、ゲーム以上の展開で進んでいます。ちょっと信じられません」
本業は和歌山の梅干し業者。梅を使った乗馬用飼料を製造販売してきた父が6年前、北海道で本格的に競走馬を対象とするサプリメントの効用試験を始めた。
「先に家業を継いでいた弟に誘われ、競走馬をもっと知ろうと2017年産から
一口馬主を始めました。長く金融マンを経験した者として当初は投資効率が悪いかと思っていましたが、ペットのようなかわいさと、我が子の運動会のような楽しさを知って
一口馬主業にはまり、価値観が変わりました。ペットに投資効率を求める人はいないですもんね」
前職の銀行員時代に登録要件を満たしたことを機に昨年、馬主資格を取得。大学から約20年間、東京で生活したが、和歌山への帰郷を決意した。
「子どもの頃から馬が大好きで、一度は馬主になってみたいと思っていました。そして、競走馬では実績がなく、競馬関係者の信頼獲得に苦戦している家業の馬飼料事業のてこ入れをしたいなと。この二つの思いがきっかけでした」
今年4月に中山競馬場で行われた
ブリーズアップセールで
ウメムスビを購入。共有ではなく、単独で所有している。
「馬のサプリを造っていて、自分の馬に試したいと思いました。弊社が梅から抽出加工した成分がアスリートに良い効能を示したので、馬にも良い結果が出るだろうと自信がありました」
自社の競走馬専用サプリ「Vitav」は液体で、経口投与かエサに混ぜて与える。
ウメムスビも食欲が旺盛だ。
「放牧先でいっぱい食べていますね。サプリを与えるとカイバ食いが落ちず、毛づやも良く、元気いっぱいでとても良いと言われます」
いよいよG1。前走こそ先約があって騎乗できなかったが、デビューから手綱を執る角田河とのコンビ復活となる。大舞台で新人騎手を起用するが、信頼は揺るがない。
「大河君は
ウメムスビに日本で一番乗っている騎手ですし、栗東所属で普段の調教にも乗れますからね。何より『人の思い』が大事だと思っています。例えばルメールさんが乗ってくれるとしたら、いっぱい強いお手馬がいるなかの一頭。でも、大河君にとっては特別な一頭で、乗りたいと強く言ってくれています。僕も彼も新人、
ウメムスビは初子、新種牡馬の初年度産駒で初もの尽くし。新米チームで一緒に成長できたら楽しいですね」
馬主登録は前走後に法人名義に変更したが、個人名義だった10月末時点では、2歳馬オーナーの
アーニングインデックス(AEI)で約2700人中1位だった。今後の目標、今回の抱負とは。
「人馬から愛される馬主になりたい。今、多くの方に応援してもらえて、これほどうれしいことはありません。馬主の醍醐味(だいごみ)だと思います。数値目標を挙げるならAEIの高い馬主。サプリの効果の証明にもなると思いますからね。新谷調教師とは『記念出走だったら意味がない』と話していました。最終的に、私も希望する
朝日杯FSに行くと決めてくれたので、いい勝負をしてくれると思っています」(聞き手・玉木 宏征)
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アーニングインデックス 出走馬1頭当たりの収得賞金値。平均値を1.00とし、数値が大きくなるほど多くの賞金を獲得していることを表す。主には種牡馬の優劣を判定する数値として用いられる。
◆細川 陽介(ほそかわ・ようすけ)1982年9月18日、和歌山県みなべ町出身。40歳。慶応大理工学部を卒業し、同大学院理工学研究科修了。
メリルリンチ日本証券、日本政策投資銀行を経て昨年、家業を継いだ。役職は紀州ほそ川飼料社長、紀州ほそ川CFO(最高財務責任者)。家族は妻と3児。
スポーツ報知