2018年の開業以来、着実に
ステップアップを遂げてきた
武幸四郎厩舎。昨年の勝利数こそ前年を上回ることはできなかったものの、
ウォーターナビレラの
桜花賞2着好走や
セキフウの海外遠征での善戦など、印象に残る活躍が厩舎全体のレベル向上を伝えている。
傾向として見え始めたのは2歳戦での活躍が多いこと。先に挙げた
ウォーターナビレラや
セキフウは2歳重賞勝ちを収め、そして次世代の明け3歳馬は多くがデビュー勝ちを飾っている。これは年々、管理馬の質が上がっていることを示すとともに、勝っておくべきレースを確実にものにする厩舎の調整パターンが確立されてきたからに他ならない。
勝率が上がることで信頼性が増したとなれば、馬券を買う側からしてもこの注目すべき厩舎の動向からは目が離せない。現3歳新馬勝ち組からは8日の
シンザン記念(中京芝1600メートル)に
ライトクオンタムが、15日の
紅梅Sには
イリゼが出走を予定している。
もともと、その調整
スタイルはデビュー前の新馬にはしっかりと負荷をかけた仕上げを行う、いわゆる既存の調整パターンとは一線を画していた。それぞれの馬の個性に合わせた調整法を確立。その結果、予想紙の調教欄には馬なり主体で半マイルからの追い切り時計が並ぶこととなり、時にそれは速い追い切り時計をマークしていることが重要な
ファクターとなる新馬戦での評価をしづらくもする。「仕上がり途上なのでは?」といった勝手な妄想を周囲が抱くこともあるが、そのあたりについては陣営はまったく意に介していない。
「時計とか追い切りがどうこうじゃなくて。普段、普通のところをしっかりと乗り込んでいるから」とはトレーナーに新馬のコメントを求めた時によく聞かれたフレーズ。攻め込んだ仕上げを施すと新馬戦までの調教で
ピークを迎えてしまったかのごとく実戦にいってまるで力を発揮できない馬がいたり、新馬戦こそ結果を得られたものの、その過程で競馬は苦しいものと解釈してしまったのか、2走目以降でパフォーマンスを下げる馬が多くいることも事実。
普段の角馬場でのフラットワークや時計にはならない長めからの乗り込みを重視することで馬の将来性までを考慮した、精神面で追い込むことをしない調整法。そんな
スタイルが2歳戦にマッチしてこその好成績なのだろう。
ライトクオンタムのデビュー戦でもそのような傾向は見られた。
ディープインパクトのラストクロップということで1番人気の支持を集めたものの、馬なり主体の追い切りに加えて、線が細く映る馬体に不安をささやく声が一部では上がっていたのも事実だ。
「きゃしゃに見える馬体だから入厩させるべき時期を慎重に待っていたけど、入厩してからは何のトラブルもなく、しっかりと乗り込むことができた。軽い走りからも芝の良馬場でどれだけ走れるか期待が持てる」
武幸調教師のレース前の発言通り、新馬戦(東京芝1600メートル)はスピードとセンスを存分に見せての2馬身半差完勝。線の細く映る馬体も、逆にディープ産駒の持つ軽さを生かす意味ではプラスに作用しているのでは…と思わせるほど、先々の活躍を予感させる勝ちっぷりであった。
「新馬勝ちした後、1週間は楽をさせたけど、そこからずっと乗り込むことで体力強化に努めてきた。体重は少しのプラス程度だとしても、基礎体力はかなり上がっていると思う」
重賞挑戦を前にしたトレーナーは確実な進化に手応えをつかんでいる。
豊かな才能もレースで発揮され、結果が出なければ意味を成さないのが競走馬たちが身を置く厳しい世界。一定のハードルを決められた時期までに越えられなければ淘汰されることが当然の世界にあって、一見は逆行するかのような調整法が、先を見据えれば大きな実を結ぶことだってある。
ライトクオンタムが2走目の重賞挑戦でさらなる飛躍を遂げることを番記者として確信している。
(栗東のバーン野郎・石川吉行)
東京スポーツ