「あなたのベストレースは?」という
アンケートを取ると、必ず上位にランクインされるのが90年の
有馬記念だ。そう、
オグリキャップが奇跡の復活を遂げたラストランである。しかしながら、オールドファンでも当時の1番人気を即答できる人は少ないのではないか。
オグリキャップは5.5倍の4番人気。2着の
メジロライアンは4.7倍の3番人気だった。答えは今回の主役、
ホワイトストーンだ。
春のクラシックを終えた時点での
ホワイトストーンは、善戦キャラに過ぎなかった。
弥生賞3着、
皐月賞8着、NHK杯3着、ダービー3着。
トライアル→本番→
トライアル→本番と“フル参戦”しながら、なかなか勝利に手が届かない。それでも秋初戦の
セントライト記念で重賞初制覇を果たし、遂に“最強の1勝馬”の称号を返上。続く
菊花賞でも
メジロマックイーンの2着となって、翌年以降の中長距離戦線を同期の“メジロ2頭”
マックイーン&ライアンとともに引っ張っていくことが期待された。
ところが、古馬になって以降の
ホワイトストーンは精彩を欠く。年明け初戦の産経
大阪杯こそ勝ったが、
天皇賞・春は6着、
宝塚記念は4着。GIで掲示板が精いっぱいなら、GIIやGIIIでも勝利に手が届かない。そして最後の勝利から1年10カ月、6歳の始動戦に選んだのが93年の
AJCCだった。前年の
有馬記念で2着だった
レガシーワールドが、単勝オッズ1.4倍で圧倒的な1番人気。2番人気は
シャコーグレイド、3番人気は
レオダーバン。
ホワイトストーンは多くのファンから“終わった馬”と判断されて、単勝12.5倍の6番人気に甘んじていた。しかし、ここで低評価に反発するかのように意地を見せる。他に逃げたい馬がいないとみるや、1コーナーでハナへ。結果的にこれが柴田政人騎手の好判断だった。リズム良く、淡々としたラップを刻むと、最後まで脚色が衰えることなく、2着の
レガシーワールドに2馬身半差の完勝。小雨が降る中山競馬場は祝福の大きな拍手に包まれたのだった。
この一戦で全てを出し尽くしたのか、その後は勝利を挙げることなく、7歳の
札幌記念(10着)を最後に引退。種牡馬となったが、98年に小腸癒着によって12歳で急逝した。その血を引く現役馬は残っていない。しかしながら、冬の中山で見せた復活劇は、30年が経った今でもファンの脳裏に焼き付いている。