先週の
大阪杯では、
ジャックドールを勝利に導いた
武豊騎手の手腕を絶賛する声が多く聞かれた。確かに名手の凄みを見せつけるペース配分だった。他の騎手の「
ジャックドールが逃げるに違いない」という先入観も利用したのか、パートナーを急かすことなく、左右の動きを確認しながらジワッとハナへ。前半3Fの35秒5は、昨年(5着)の34秒6より0秒9も遅かった。
一転、中盤からはペースアップ。残り6Fから5F連続して11秒台のラップ(11秒4-11秒7-11秒5-11秒4-11秒4)を刻み、後続の捲りを封じてみせた。序盤の省エネと中盤からのロングスパート。この2点が大きな勝因といえるだろう。
一方で敗者の中にも、さすがと思わせる手綱さばきを見せた名手がいた。1番人気で2着に敗れた
スターズオンアースの
ルメール騎手である。スタートのタイミングが合わなかったことに加え、1角での不利もあって後方からの競馬に。ペースを考えると早めに押し上げたいところだったが、直線に向くまで馬群の中でジッと我慢。残り1F手前から猛追して、惜しくも鼻差届かずの2着だった。
スターズオンアースの単勝、あるいは1着固定の馬券を買っていたファンの中には、「もっと早く仕掛けていれば…」と思った人がいるかもしれない。しかし、本当にそうだろうか。仮に11秒台半ばのラップが刻まれていた3〜4角で押し上げるとなれば、外を回して10秒台後半から11秒台前半のラップを続ける必要があった。これでは
ディープインパクトでもない限り、ゴール前で脚が上がることは明白。つまり、いわゆる勝負所で動かなかったからこそ、ゴール前であれだけの脚を使えたのだ。
レースを見る時は、どうしても“動いた”シーンに注目しがちだ。しかし、動くことが必ずしも正解ではない。1番人気でのハナ差2着だから、陣営にとって納得のいく結果ではなかっただろう。それでも
ルメール騎手の“動かない凄さ”は強く印象に残るレースだった。