昨秋の
アルテミスS。当時からすでに翌春の牝馬クラシックの大本命と目されていた単勝1.4倍の
リバティアイランドを負かした馬こそが
ラヴェルだった。
出遅れて直線だけの競馬になりながらも、進路が開かずに追い出しを待たされてモタつく
リバティアイランドを尻目に、大外を豪快なス
トライドで駆け抜ける。そのスケールの大きな走りは、クラシック大本命の対抗馬としての期待を大いに抱かせるもの。
2戦2勝と負け知らずで臨んだ2歳女王決定戦・阪神JFで
キタサンブラック産駒の素質馬はどんな走りを見せてくれるのか、大きな期待を集めたが…。結果は
リバティアイランドに遅れること実に1秒7差の11着惨敗に終わった。
出遅れたうえに、折り合いを欠く、チグハグなレース内容。自慢の決め手が鳴りを潜めたままだったのも仕方ない? しかし、雪辱を期して臨んだ牝馬クラシック1冠目の
桜花賞でも異次元の鬼脚を繰り出してGI連覇を成し遂げた
リバティアイランドとは対照的に、
ラヴェルは伸びきれずにまたしても11着惨敗。
すでに評価は地に落ちた感もあるのだが…。
リバティアイランドの「1強」ムードが強まれば強まるほど、女王に唯一の黒星をつけている
ラヴェルに「再逆転の余地はないか」と考えてしまう自分がいたりする。
「結果的には11着でしたが、課題のゲートと折り合いに進展は見られたし、きっかけをつかめるようなレース内容でした」
こう
桜花賞を振り返ったのは担当の福岡助手。そう、2400メートルの
オークス(21日=東京)に向かう
ラヴェルにとって最大の課題は、そのあふれる前進気勢をいかにコントロールするかに尽きる。その第一歩目として考えれば、決して悪い競馬ではなかった。さらに課題克服に向けて様々な工夫を凝らしてきた陣営はこの中間、試験的に新たなハミを使用。これが一定の成果を上げているのだという。
「“チェリー
ローラービット”と呼ばれるハミに替えたのですが、力で抑える他のハミに比べて遊びがある感じですね。常歩でのハミ受けもいいし、馬の気持ちが変わってきているのを感じます。競馬に行ってどうかは分かりませんが、調教段階で効果がみられるのは確かですね」(福岡助手)
レースでの使用はジョッキーと検討したうえで決めるようだが、その坂井がまたがった最終追い切りではリズム重視の内容でも坂路4ハロン52.4秒の自己ベストをマークしたのだから効果のほどは推して知るべし。巻き返しへの創意工夫が大一番を前に結実しそうな雰囲気なのだ。
取材のたびに「この馬の弾むような走りは、どの馬にも与えられているわけではない。生まれ持ったモノだと思います」と
ラヴェルの“天賦の才”を繰り返し強調する福岡助手。そして今週の取材では「最近はカリカリするところもないし、カイ食いも良くなっています。この時期の牝馬は短い期間で変わってきますからね」と、その類いまれな才能に、ようやく精神面が追いついてきたことを示唆している。
とはいえ、惨敗続きからのガラリ一変はさすがに厳しい? しかし、これだけは確実に言える。
ラヴェルが激走すれば、「
アルテミスSで
リバティアイランドを負かした馬なんだよな」って買わなかったことを後悔する声が、あちらこちらで漏れることになるだろう。
(元広告営業マン野郎・鈴木邦宏)
東京スポーツ