2日で2カ月半に渡る北海道シリーズが終了。個人的な話、散々やられて馬券的には思い出したくもない夏だったが、ちょうど函館&札幌出張中にかけがえのない取材をさせていただく機会に恵まれた。来年への備忘録をかねて記しておく。
「真狩サ
マーステーブル」。世界を股にかけて活躍する矢作師が
プロデュースし、久子夫人がオーナーを務める牧場がこの夏、北海道の真狩(まっかり)村にオープンした。トレーナーいわく、長年の構想だったという。
「函館、札幌開催時の輸送についてはずっと考えていました。例えば、社台グループの馬であれば函館から千歳までまだ近い方ですが、浦河の馬は馬運車で8時間。ただ、真狩村までなら3時間で来られますから」
これまでは短期放牧に出したとしても相当な負担と時間を要していたが、この“中継基地”でそれらを大きく軽減される。
輸送時間や負担が小さくなることで、馬にとっても厩舎にとってもいい
サイクルが生まれる。函館や札幌では競馬場で割り当てられる馬房数が限られており、何年もJRA出走回数ラン
キングトップを走り続ける指揮官にとって、夏場の馬房の回転は悩みの種だった。「(馬房の入れ替えは)毎週パズルのよう。(真狩サ
マーステーブルが)そのパズルの一つのキーになれば」と、課題解決へと視界が広がる。
ロケーションも最高だ。ご存じの方もいるかもしれないが、真狩村は“蝦夷富士”とも称される羊蹄山の麓に位置。天気がいい日には望むことができる。近くでは馬にとっていいとされる軟水が湧き、ある馬に関して「来た時に細っていたのが、ふっくらした」といい、まさしく“水が合う”という言葉がピッタリな現象が起きているほど。短期のリフレッシュ放牧にこれ以上向く場所はないと感じさせられた。
今夏は使われなかったが、既にトレッドミルの設備が整えられている。「冬の間にスタッフをトレッドミルのある牧場で研修してもらう予定で、来年から稼働させたい」と師。今年は北海道シリーズで勝利数8位タイだったが、ソフト面がさらに充実する来夏はV数も伸びること必至。馬券的な意味でも、どう成績が変わっていくのか注目したい。
定年まで10年を切っている指揮官だが、野望はまだまだ尽きない。「土地が取得できれば将来的には養老牧場をつくる構想もあります」。真狩サ
マーステーブルには「
コントレイル」、「
リスグラシュー」、「
ラヴズオンリーユー」の名が冠された3棟のコテージ・エクリプスが建てられ、“オフシーズン”の10~5月には宿泊施設として稼働。決して気軽に泊まれるお値段ではないというが、室内には
コントレイル像やポスター、肖像画が飾られており、競馬ファンの心がくすぐられるものになっている。そこに引退馬を繫養(けいよう)する養老牧場が併設されるとなれば、大人気スポットになること間違いなしだ。
「村おこしになれば」と矢作師が期待すれば、真狩村の岩原清一村長も「真狩には澄んだ空気と湧水があり、おいしい農作物が採れます。名高い馬名を冠するコテージができたことは、村としても本当に名誉です。観光資源スコアを引き上げるものだと思います」と目を細める。
もはや競馬界のみならず、地方活性化にも大きく寄与している“世界のYAHAGI”。トップトレーナーの座に甘んじず常に上を向き、そして多角的に還元していくその姿勢は、記者を含めて多くの人々を魅了し続ける。(デイリースポーツ・山本裕貴)
提供:デイリースポーツ