G1を連闘する…。
トライアルを使わずにG1へと向かうことが当たり前となった現代競馬からは想像がつかないが、
マイルCSから中6日で
ジャパンCへと向かった馬がいた。89年、芦毛の怪物、
オグリキャップだ。
マイルCSは圧巻だった。前走の
天皇賞・秋で
武豊操る
スーパークリークの前に2着に敗れた南井克巳騎手(当時)。その心中はメラメラと燃えていた。
「負けてはいけない馬で負けた。借りを返したい」。馬は違えど、今回も目の前に立ちはだかるのは
武豊騎手。パートナーは
バンブーメモリー。同年の
安田記念を制し、
ステップレースの
スワンSを3馬身半差で完勝していた。オグリにとって簡単な相手ではなかった。
単勝1・3倍。
オグリキャップは抜けた1番人気となったが、レースは厳しいものとなった。スタートでわずかに遅れた。二の脚を駆使して5番手のインを確保したが、直後では
バンブーメモリーが息を潜めていた。
4角手前。早々と南井騎手の手が動く。一方、
武豊騎手の手応えは絶好だ。スムーズに外へと出る
バンブーメモリー。オグリは前を
ホリノライデン、内を
トウショウマリオ、外を
バンブーメモリーに囲まれ、一瞬、スピードを緩めざるを得なくなった。しかし、
トウショウマリオが横に動きつつ下がった。オグリは間をスパッと抜けた。
満を持して先頭に立つ
バンブーメモリー。
オグリキャップも何とか内に進路を確保し、
武豊を追う態勢を整えた。だが、
バンブーメモリーの勢いは衰えない。残り200メートル。2馬身差。勢いの差からみて、ほぼ勝負は決したと思われた。
だが…そこからオグリが迫る。南井騎手の右ムチ連打に応え、1完歩ずつ
バンブーメモリーとの差を詰めた。1馬身、半馬身、首…。そしてゴール前でついに並んだ。
関西テレビの放送ブースでは「もう同着でもいいんじゃないか」と杉本清アナ(当時)が正直な感想を口にした。しかし、ゴールから3分45秒後、勝負は決した。
オグリキャップが鼻差、勝っていた。
お立ち台に上がった時、南井騎手は泣いていた。「こんなに強い馬に乗せてもらって、この間負けましたからね。オグリへの借りはまだ半分しか返してない。来週の
ジャパンCで倍にして返したいと思います」。場内からは割れんばかりの拍手が起きた。
レース確定から2時間後、
オグリキャップは馬運車に乗せられ、東京競馬場へと向かった。1週間後、
ジャパンCで南井騎手の“倍返しリベンジ”はならなかったが、女傑
ホーリックスとの火の出るような叩き合いで再びファンの胸を打つことになる。
スポニチ