武豊は「観客の感情が競馬場内に充満するのが
有馬記念の特徴。あの雰囲気はたまらんよね」と日本人のハートをわしづかみにするレースだと認めている。同時に自身も「今年はいろんな出来事があったから、特別な気持ちを乗せて騎乗する」とも言っていたので、人馬の復活は当然として胸の中に“あの人”が含まれていることにピンときた。
先月、他界した作家の伊集院静さんのことである。「出会ったのは19歳の時。人との接し方、酒場での振る舞いや飲み方。旅、趣味の競輪。全て教わった」。人生の師匠と仰ぐ間柄。結婚時は仲人まで務めた伊集院さんが亡くなったのはちょうど1カ月前、イブのこの日は月命日だった。
勝負事なので紙面には載せていないが「伊集院さんにいい報告をしたい」と言っていたから心中、期するものがあった。現実にかなったから凄い。伊集院さんは
武豊の仲人をして以来、馬券は買わなかったが、今年のダービーで「ユタカの馬の馬券を買ったけどハズレたよ」と久しぶりに馬券を楽しんだ話を電話越しで私にしてくれた。今年の
有馬記念、天国で見守っていただろう。生きていればどんな言葉をかけ、どんな活字で
武豊を称えるだろう。それはきっと誰もまねできないシビれる文章になっているに違いない。 (レース部・菱田 誠)
スポニチ