時がたつのは早い。つい先日まで
有馬記念でドタバタしていたような感覚なのに、もう新たな年に入ってから20日以上が過ぎた。そんな中、ある騎手から聞いた言葉が頭から離れない。「私の2024年はまだ始まっていないんです」。
古川奈穂騎手=栗東・
矢作芳人厩舎=はそう何度も繰り返した。昨年12月9日の中京8R。騎乗した
サツキスマイルが3コーナーで前の馬に乗っかかるような形で
バランスを崩し、そのまま地面に叩きつけられた。「落ちた瞬間や、その前後のことは覚えていません」。
記憶が戻ったのは競馬場内のレントゲン室。周囲の人の会話が耳に入ってきて、左鎖骨を骨折したことが分かった。しかし、何よりも知りたいことが一つあった。「私が乗っていた馬に大きなケガや異常がなかったこと、周りの馬にも(故障などの)影響がなかったことは確認しました」。もちろん、自分のミスであることをしっかりと受け止めた上で騎手として、馬を愛する人間としての本能から出た行動だった。
患部はそのまま回復を待つ保存療法も可能だったが、早い時期での復帰を考えたうえ、ワイヤーで固定する手術を受けた。現在はリハビリと並行して、体も動かしている。「下半身は動かせるので、今までと同じようなトレーニングを続けていました。上半身の負荷もこれから徐々にかけていく感じです」。焦らず、黙々とメニューをこなす日々だ。
23年はキャリアハイを大きく上回る25勝。騎乗数も過去2年より大幅に増えた。「今まではレースの中で自分が焦ってしまったり、人間の気持ちがメインになるようなところがありました」。その意識に変化を与えたのは横山典だ。札幌で食事に同席したことがきっかけで、調教スタンドなどでは東の名手の話に熱心に耳を傾けた。「馬のリズム、気持ちを大切に、と話していただきました」。自然と落ち着いた状態でレースに臨めるようになり、好循環が生まれた。
もちろん、現状に満足していない。「スピードある馬に乗せていただいた勝利が結構多くて、減量に助けられている面があります」。その言葉通り、昨年の25勝中19勝が4角で3番手以内。積極的に運び、最後まで踏ん張り通すという印象が強い。ただ、現在は通算42勝。女性騎手の減量制度が4キロから3キロに変わる51勝のラインはしっかりと意識している。「3キロ減が徐々に迫ってきていますし、自分自身の技術をさらに磨いていきたいです」と言葉に力を込めた。
1月23日から滋賀県・栗東トレーニングセンターで調教騎乗を再開。大好きな馬上へ、約1か月半ぶりに戻ってきた。実戦復帰も、そう遠い日ではないだろう。
古川奈穂の2024年がもうすぐ始まる。(
中央競馬担当・山本 武志)
スポーツ報知