JRAの公式実況を担当するラジオNIKKEIに、同局初めてとなる女性実況アナウンサーが誕生した。入社4年目を迎えた藤原菜々花アナウンサーは、入社試験を受けるまで競馬に触れる機会がなく、「おじさんがやるギャンブル……」というイメージを持っていた。そんな彼女が、なぜ競馬関連の
コンテンツが多い同局に入社するに至ったのか。上長の中野雷太アナウンサーとともに、採用のエピソードを伺った。
学生のころは競馬と無縁の生活。ラジオNIKKEIの志望理由も、ラジオアナウンサーに憧れたから。「当然ですが競馬も知らないし、まさか自分が実況することになるとは思ってなかったです。競馬実況をまったく聴かずに入社試験を受けました(笑)」。
だが、面接の中で運命を変える出来事があった。「最初のマイクテストで架空実況をしようと言われ……。とりあえず、自分が思う実況をやってみたら、次に通していただけました。ひどい実況を披露してしまったから、これはたくさん練習していくしかないと思い、次のテストまでいっぱい実況を聴いたし、オッズの読み方も自分で調べて勉強しました」
自身を物怖じしないタイプと話す藤原アナ。積極的な姿勢と、自ら学ぼうとするひたむきな姿は、面接官を務めていた中野アナにも強い印象を残した。「次のテストのときに、ものすごく進歩していて。この子は自分でどうしたらいいか、ちゃんと考えられる子なのだなと思いました」。
競馬の知識は無かったが、アナウンサーになりたい気持ちと、
アナウンス技術は持っていた。そして何より、目標に対してしっかり動ける姿が中野アナの目にとまった。「競馬へのアプローチも見つけていくだろうし、数を重ねれば実況技術も身に付いていくから、大丈夫だと思いました」。そんな面接の過程で、中野アナには忘れられない言葉があるという。
「私、もし競馬実況ができたら、すごくかっこいいなと思ったんです」
競馬実況に初めて触れ、藤原アナの心から出た素直な気持ち。「いや、かっこいいと思うよ。本当にかっこいい」。真っすぐな言葉に心を動かされた。「よし、かっこいい君になろう!」。教える側として、改めて覚悟が決まった。
「スポーツ実況は男性がやるものという、固定概念のようなものがありましたけど、果たして本当にそうなのか? と、ここ10年くらい考えるようになりました。実際、私がこの仕事に就いたときには、
地方競馬でお二人女性実況アナウンサーがいらっしゃいました。
そして彼女のような受験者に出会い、女性が実況することがあってもいいと思いましたし、あとは僕らがちゃんと育成できるかどうかだけだったのですよね。障壁はないと僕は思っていて、みんなもやりましょうとなり、藤原アナウンサーを採用することが決まったということです」
お互いにとって忘れられない面接を経て、藤原アナは現在、前半のレースでラジオ実況を続け、次なる
ステップに向けて経験を積んでいる。入社から4年、いまでは競馬に対するイメージも大きく変わった。中野アナが期待していた通り、自分なりの競馬観を見つけ出している。
「競馬は一頭、一頭の背景にストーリーがあるスポーツなのだなと思います。あと馬券が買えるのが、ほかのスポーツと違うところですよね。馬券を買った馬って、まるで自分がレースに参加しているかのような感覚が強まりますし、楽しいなって思います」
ニュースやトーク番組、トレセン取材や騎手インタビューなど、競馬界の内外で仕事の幅を広げる藤原アナ。中野アナは「スター
トラインに立ったばかり」としつつも、今後にエールを送る。
「彼女ももっと多くのことを経験して、『この人、本物だよな』って思ってもらえる実況アナウンサーになることを期待しています。彼女が持っている和やかな雰囲気を大事にしつつ、相手がしっかり話さなきゃいけないような、鋭い質問ができる彼女になってほしいですね」
かっこいい私に向かって、一歩ずつ。いまは階段を上り始めたばかりだ。
◆中野 雷太(なかの らいた)
97年に日本短波放送(現・日経ラジオ社)へ入社。これまで数々のGI競走で実況を担当しているほか、
JRA賞の司会を務めるなど、活躍は多岐に渡る。学生時代から競馬に興味を持ち、想い出の馬は
ヒシアマゾン。現在の主な担当番組は『
中央競馬実況中継』『うまきんIII』『日経電子版NEWS』など。
◆藤原 菜々花(ふじわら ななか)
20年に日経ラジオ社へ入社。趣味はフィギュアスケート観戦で、自身が企画した番組『こだわり
セットリスト・特別編〜羽生結弦選手特集』は世界中で話題となった。今年1月8日に競馬実況デビュー。日曜18:20〜放送中のトーク番組『ななかもしか発見伝!』では、自身が
パーソナリティを務めている。