日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社・面来陽介(33)が担当。今年の
安田記念で18年ぶりの外国馬Vを達成した
ロマンチックウォリアーは、いかにして勝利を手に入れたのか。真相を探るべく、香港馬が滞在した東京競馬場の新国際厩舎に足を運び、担当した
JRA獣医師の真下聖吾さん(48)に話を聞いた。
今年も多くのドラマが生まれた春の東京G15連戦。香港馬
ロマンチックウォリアーがワールドクラスの実力を見せて最終戦・
安田記念を締めくくった。記者歴が浅い私にとっては外国馬が日本で活躍することが新鮮だった。22年
ジャパンCから運用を開始した新国際厩舎にはこれまで合計10頭の外国馬(帯同馬含む)が入厩。その中で初めてアウェーで栄冠をつかみ取ったウォリアー陣営。この勝利の裏には管理するシャム師の知恵と、勝利に対する貪欲な姿勢があった。
サラブレッドにとって環境の変化はストレスのもと。ウォリアー陣営がまず最初に対策を取ったのは馬房内にある1平方メートルにも満たない小窓から。真下さんは「陣営からの希望があり、(小窓を)馬から見えないように工夫しました」。小さな窓から見える普段とは異なる景色でさえサラブレッドに与える影響は計り知れない。「不慣れな環境の中で実際にカイ食いが落ちた例もありました」。来日した厩舎関係者の多くが最も気にしていたのは環境の変化。従来の日本の検疫システムは2度の輸送が必要だったが新国際厩舎が完成されたことにより空港から直接、東京競馬場への入厩が可能になった。「輸送の回数が減ったことももちろんですが、(環境の変化が)1回になったことは大きいと思います」と、そばで身をもって実感していた。
全ての原動力となるカイバ。馬房内の鉄格子に取り付けるカイバ桶(おけ)にも工夫が施された。基本はカイバ桶自体に付いている2本のチェーンでつるす。そこを今回の
安田記念では特注の“カイバ桶の台”で本番に臨んだ。木製のカイバ桶の台はポリ
エステル製のロープを2本使用し鉄格子につるす。仮に鉄格子と接触しても大きな音が鳴らない仕様になっている。「前回(
ビクターザウィナーで今年の
高松宮記念に来日)、馬房内にある
クレセント錠にテープを張るなど細かい部分から対策していました。それくらい環境づくりには敏感な方」と真下さん。特注の“カイバ桶の台”は前回の経験を踏まえ東京競馬場側が事前に準備したものの一つ。陣営が綿密に練ったレースまでの徹底された環境づくりが今回の勝利につながったのだろう。
近年、減少傾向にあった強豪外国馬の来日。不慣れな環境下で勝つことの難しさを今回の
安田記念でウォリアー陣営が打破。このVが他の海外陣営にとっていい起爆剤となれば、今まで以上に日本競馬界が盛り上がるに違いない。
◇面来 陽介(おもらい・ようすけ)1990年(平2)9月7日生まれ、埼玉県出身の33歳。元消防士。昨春から1年間の見習い期間を経て今年の4月から競馬担当。
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