98年の
スプリンターズSはラストランとなる
タイキシャトルの1強ムードだった。しかし、単勝1.1倍の大本命は直線で伸びを欠いて3着。代わって勝利を収めたのは7番人気の伏兵
マイネルラヴだった。多くのファンを驚かせた一戦を振り返りたい。
前年秋から芝短距離路線は
タイキシャトルが不動の主役だった。3歳10月の
ユニコーンSから5つのGIを含む重賞8連勝。この年は始動戦の
京王杯SCから
安田記念、仏G1の
ジャックルマロワ賞、
マイルCSと制し、この
スプリンターズSがラストラン。レース後には引退式が予定されていた。単勝オッズは1.1倍。ほとんどのファンが勝利を確信していた。
しかし、そこに待っていたのは”まさか”の結末だった。いつものように、手応え良く好位を追走する
タイキシャトル。ファンも当然のごとく、ゴール前で栗毛の馬体が豪快に後続を突き放すシーンを想像していた。ところが、である。追われてからの反応が鈍い。代わって、直線で先頭に立ったのは
マイネルラヴ。4角で大本命に並びかけると、直線での叩き合いで一歩も譲らない。ゴール前で強襲した
武豊騎手の
シーキングザパールをアタマ差抑えてフィニッシュ。
その瞬間、中山競馬場の空気は一気に凍りついた。負けるはずがない馬が負けたーーー。例えれば、05年の
有馬記念で
ハーツクライが
ディープインパクトを破ったときに似た空気とでも言おうか。誰も想像していないシーンがファンの目の前で現実として起こったのだ。この年には日本調教馬として2頭目となる海外GI制覇も果たし、絶対王者として君臨していただけに、まさに「競馬に絶対はない」を具現化したのがこのレースの
マイネルラヴだったと言ってもいいだろう。単勝37.6倍、7番人気に甘んじていた3歳牡馬を殊勲の勝利に導いたのは、テン乗りの
吉田豊騎手だった。
このレースを最後に種牡馬となった
タイキシャトル。一方、
マイネルラヴは翌年以降も現役を続け、4歳時に
シルクロードSを制覇。残念ながら2つ目のGIタイトル獲得とはならなかったが、
スプリンターズSでは4歳時が4着、5歳時が5着と奮闘。「最強馬を倒した馬」の面目を保った。