◇鈴木康弘氏「達眼」馬体診断
重賞3連勝でス
プリント界の頂点へ。鈴木康弘元調教師(80)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第58回
スプリンターズS(29日、中山)では
サトノレーヴをトップ採点した。達眼が捉えたのは、大きな顎とともに発達した強じんな筋肉だ。
顎が育てば、脳も育つといいます。顎を使って食べ物をかむことが脳への刺激となり、脳細胞を活性化するからです。顎が育てば脳とともに体も育つのが競走馬。
サトノレーヴが夏の連戦のダメージどころか、さらに馬体を充実させているのはなぜか。顎を見れば合点がいきます。
左右に大きく長く張り出した顎。よほど食欲旺盛なのでしょう。「実は僕、
グルマン(食いしん坊)です」と、立派な顎が自己主張しているようです。よく食べるから、しっかり鍛えられ、たくましい筋肉が身につく。肩から肩先にかけての強じんな筋肉はラ
イバルを圧倒しています。トモ(後肢)の筋肉量も豊富。たくましい前肢と釣り合いが取れています。550キロ近い体重なのに大型馬だと感じさせないのは
バランスが整っているからでしょう。
大きなキ甲(首と背中の間の膨らみ)から背、尻へかけてのトップラインは滑らかで美しい。肌はビロードのように薄い。そのため四肢の血管が皮膚の内側からうっすらと浮き出ています。父
ロードカナロア×母の
父サクラバクシンオーの血統を体現するようなス
プリンター体形です。
顎が育てば脳も育つ…の格言通り、立ち姿には賢さがうかがえます。聡明(そうめい)な目、きちんと立てた耳と鼻先が前方の一点に集中し、ハミ受けも強からず弱からず。
リラックスしながらも適度な緊張を保っています。5歳馬とはいえ、休養(蹄の調整)が長かったため、まだキャリア9戦。少し陰部を出しているのは若さゆえでしょう。
調教師引退後にスポニチ紙面でスタートしたG1馬体診断も今秋で10年目。これまで顎っぱりの良さを指摘した多くの競走馬が発達した体と賢さでタイトルを手中にしました。例えば、18年に
高松宮記念と
スプリンターズSを制した
ファインニードル。
サトノレーヴと同じ堀厩舎でいえば、フェブラリーS(21、22年)を連覇した
カフェファラオもそうです。
顎が目立った著名人といえば…。アントニオ猪木氏がインタビューでこう語っていました。「力道山に“あご、あご”と呼ばれて、まあ本当にお嫁さんが来ないんじゃないかと思ったこともあったんですね」。でも、猪木氏には倍賞美津子さんら4人のお嫁さんが来ました。
サトノレーヴも将来、たくさんのお嫁さんがやってくるような名ス
プリンターになる。立派な顎がそう主張しているように思えます。 (NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の80歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長。
JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。
スポニチ