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【チャンピオンズC】菱田裕二 待ち焦がれた復帰後初G1 相棒アーテルアストレアの偉業に挑む

スポニチ
  • 2024年11月27日(水) 05時30分
 秋G1シリーズの水曜企画「G1追Q!探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけ本音に迫る。ダート王を決める「第25回チャンピオンズC」は大阪本社の田井秀一が担当。長くコンビを組んできた相棒アーテルアストレアと共に、落馬負傷から復帰後初めてのG1騎乗に臨む菱田裕二(32)に思いを聞いた。

 菱田は9月14日の中京10Rで落馬。左上腕骨骨幹部骨折、右膝関節内側側副じん帯損傷、右大腿骨骨挫傷、肺挫傷の大ケガを負った。中でも膝は曲がらなくなるほどで「かなり時間がかかると思った」という。しかし、超人的な回復を見せ、わずか2カ月足らずで11月9日の京都競馬にて復帰。「先生の方々に懸命にサポートしてもらって、当初のイメージより早く戻ってこられた」と振り返る。

 競馬に乗れない期間は「モチベーション維持の難しさ」と闘った。支えになったのは家族の存在。3歳になった長男は父親がジョッキーであることを認識しており、「サポートしてくれた家族のおかげで“もう1回頑張らなきゃ”と思うこともあった」。療養期間中には自厩舎の遠征に帯同し、佐賀競馬場で行われたJBC諸競走を現地で観戦。「もしアーテルと一緒に出ていたらどういう競馬になっていただろう、と考えながらレースを見ていた」。相棒アーテルアストレアの存在もよりどころの一つだった。

 14年にチャンピオンズCと名称が変わってから過去10年で、牝馬の出走はアーテルアストレアを含めてたった6頭だけ。パワーがものを言うダート戦線で、同馬の470キロ前後の体はかなり小さい。2年連続、最軽量での出走が濃厚だが、「外からだと女の子らしい馬に見えるかもしれないが、またがっているとどっしり。屈強な牡馬相手でも力負けしない」。強靱(きょうじん)な体幹に加えて「前を射程圏に入れれば、かわしにいってくれる闘争心がある」と気持ちの強さも大きな武器となっている。

 9着に敗れた昨年も上がり3Fはメンバー2位タイ。何より、中京ダート1800メートルではメンバー最多4勝を挙げている。「中京専用というわけではないが、左回りの方が得意ということもあって中京では伸び伸び走れている」。東京に次いで長い直線は、末脚を存分に生かすのに十分な410・7メートル。特有のスパイラルカーブも急坂もアーテルは「苦にしない」。サンビスタ(15年チャンピオンズC)以来9年ぶり2頭目となる、牝馬によるJRAダートG1制覇の偉業へ、この上ない舞台設定だ。

 21年10月の初騎乗(2歳未勝利=1着)から3年以上の付き合い。16度目のタッグはメンバー断トツだ。初勝利は余裕の逃げ切りだったが、「逃げ一辺倒では上に行ってから選択肢が少なくなる」と脚質転換を陣営に進言。「先生(橋口師)が了承してくださって、時間をかけて取り組めたのはこの馬にとって凄く大きかった。賢い馬でそういった指示にもすぐ対応してくれた」。重賞3勝はいずれも差し切りV。英断だった。

 実戦だけでなく調教でも絆を深めてきた。「真面目な馬なので時間を重ねるごとにどんどん強くなっている。調教の動きも加齢に伴って右肩上がりに良くなってきた」と成長を実感。今春の天皇賞では、“Roy君”と呼ぶもう1頭の代表的なお手馬テーオーロイヤルとG1初制覇。1歳上の相棒との成功体験も自信につながっている。「2頭が共通しているのは心の強さ。凄く堂々としていて、レースでいつも力を出してくれる。強い馬の共通点だと思う」。アーテルと積み上げたコンビ7勝もメンバー断トツの数字。ちなみに、ロイヤルと共に挙げた8勝目がG1天皇賞だった。そんな末広がりな偶然も、新たな共通点になるかもしれない。

 ≪自信度は昨年以上≫15年サンビスタ以来の牝馬Vを目指すアーテルアストレアは朝一番にCWコースを流した。橋口師は「凄くリラックスして順調に乗り込めている」と手応え。昨年は9着で牡馬相手のG1参戦は今回が2度目。「去年はJBC(レディスクラシック)で仕上がっていて維持するので精いっぱい。今年は馬自身も成長して体が引き締まって見える。1回使って上積みもある」と自信度は昨年以上だ。充実期を迎え菱田との再コンビで大舞台へ。木曜に最終追いを行う。

 【取材後記】菱田騎手とは同い年。ジョッキーを志すきっかけになったという04年天皇賞・春(イングランディーレ)当日は自分も京都競馬場にいた。競馬に恋した小学生同士、どこかですれ違っていたかもしれない。勝手に縁を感じて応援してきたが、今秋、栗東に異動となって念願のインタビューが実現。約束の10分前に来て、第一声が「遅くなってすみません」。律義すぎる男だった。

 アーテルアストレアは「嫌なことは嫌と主張する」芯がある女の子。追い切りでも残り50メートル地点で手応えがなくなるといい「競馬だと最後まで頑張ってくれるけど、調教だと“もう終わり!”って。乗るたびにはっきりした性格だなと思う」。個性を尊重して無理強いはせず、仲を深めてきた。最後には「この素晴らしいメンバー相手の1着は、アーテルの馬生に大きな意味があるものになるはず」と情愛ものぞかせた菱田騎手。鞍上の入れ替わりが激しい時代だからこそ、応援したくなる人馬だ。(田井 秀一)

 ◇菱田 裕二(ひしだ・ゆうじ)1992年(平4)9月26日生まれ、京都市出身の32歳。12年3月に栗東・岡田厩舎所属でデビュー。同4月14日の阪神1RトーブプリンセスJRA初勝利。今年の天皇賞・春(テーオーロイヤル)でG1初制覇。競馬学校28期生で同期に中井裕二長岡禎仁原田和真JRA通算7359戦491勝、うち重賞8勝。幼少時はJ1京都サンガの下部組織に所属し、現在はサポートカンパニーに名を連ねる。1メートル60、52キロ。血液型B。

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