引退当日を迎えた
森泰斗騎手(43=船橋)が29日、ラストデーに1日4勝をマーク。最後までファンを魅了したまま、地方通算2万8333戦目でムチを置いた。
船橋競馬12Rはその名も「ありがとう!
森泰斗騎手」。森は
ラップランド(セン5=
矢内博)で挑み、道中は3番手を追走。3角で早々とムチが入るが、ここからもたせるのが森の真骨頂。直線で先頭に立ち、あとひと踏ん張り、と思われたが、外から
グロリアンズタイムにかわされ2着に終わった。
ゴール後、1角過ぎまで流す間に、勝った町田直の肩をポンと叩いた森。3着の中越には握手を求めた。その後、枠場へ直行せず、スタンド前へと馬を導き、
ヘルメットを取って一礼。ファンへの最後のあいさつを行った。
レース後、森は「勝ちたかったな。競馬は甘くないな」と悔しがった。だが、最終日に4勝を積み重ねた名手に観衆は大きな拍手を送った。そしてゴール前で騎手仲間に胴上げされ、3度宙を舞った。
船橋1Rを
ワンラヴ(牝6=佐藤博)、同4Rを
タカラバディウス(牝3=斉藤敏)、同5Rを
オマタセシマシタ(牝4=川島一)、同7Rを
ビレッジスティール(牝4=新井清)で勝ち、これが4448勝目。8戦4勝。見事なラストデーをファンに披露した。
森の電撃引退をラ
イバルも惜しんだ。
矢野貴之は「北関東が廃止になって同じ時期に南関に来たし、仲間意識があった。それだけに寂しさがある。
キャプテンキングで森さんの
ヒガシウィルウィンと戦えたのが本当に楽しかった」と語った。
本橋孝太は「すさまじい努力を見てきたし“格好いいなこの人”と、ずっと思っていた。言葉を失うくらいショックで本当は辞めてほしくないが、想像以上の疲れがあったのだと思う」と、常に手本となってきた男との別れを寂しがった。
この日の5Rでは管理馬
オマタセシマシタに森を乗せ、見事に1着をつかんだ
川島正一師は「体がきついのは知っていた。あとはタイミングだったと思う。でも、もったいないよね」と語った。
もったいない…。そう思われている時に身を引くことこそが森の美学なのだろう。足利競馬から騎手人生が始まり、宇都宮、そして船橋。
地方競馬のつらかった頃をよく知る男は最高の騎手のまま、静かにムチを置いた。
スポニチ