トウカイテイオーの競走生活は、栄光と挫折の繰り返しだった。無敗での春クラシック2冠制覇と骨折による戦線離脱、「世紀の対決」といわれた92年
天皇賞(春)での完敗、奇跡の復活を果たした93年
有馬記念…。波乱万丈の競走生活のなかから、史上初の
ジャパンC父子制覇を成し遂げた92年
ジャパンCを『
トウカイテイオー伝説』(星海社)で振り返ろう――。
6連勝で二冠馬となった
トウカイテイオーだったが、ダービー直後に全治6ヶ月の故障を発症、無敗三冠馬の夢は絶たれた。主役不在の
菊花賞では
日本ダービーで3馬身離した
レオダーバンが勝利。
テイオーは10ヶ月後、復帰初戦の産経
大阪杯を楽勝する。このときの楽勝ぶりは「三冠馬になれた」と思わされるほどの圧倒的な強さだった。
しかし、春の天皇賞で5着と初めて敗れると、二度目の骨折を発症。半年後の天皇賞では初めて掲示板を外した。古馬初戦の産経
大阪杯でコンマ7秒も離した
ホワイトストーンと同タイムの7着。展開のアヤはあったにせよ、少なくとも、連勝当時の力強さは感じられなかった。
「
テイオーは終わってしまったのか――― 私を含めた多くのファンが半信半疑のまま、
ジャパンCを迎えた。
1番人気は[6・1・0・0]と連対率100%の英国馬
ユーザーフレンドリー。英
オークス、愛
オークス、ヨークシャー
オークス、英セントレジャーと海外GIを4連勝後、前走の
凱旋門賞をクビ差2着。全欧
年度代表馬となったこの牝馬は53キロの斤量である。
これに次ぐのがニュージーランド産の
ナチュラリズム。過去21戦[9・5・1・6]で、掲示板を外したのは3回のみ。同国産の
レッツイロープ(GI4勝)、フランス産
ディアドクター(GI1勝)。さらには2年前の英ダービー馬
クエストフォーフェイムと同年の英ダービー馬
ドクターデヴィアスも参戦するなど「外国馬は史上最強」と言われた。この背景に、競馬の国際化にこだわった
JRAの意地もあった。
史上最高のメンバーが揃ったこともあり、
テイオーの単勝オッズは10倍まで落ちている。
7年前に
父シンボリルドルフが日本馬として2頭目の
ジャパンC制覇を果たして以降、日本馬の優勝はなかった。その翌年は
皐月賞と
菊花賞を勝った
ミホシンザンが3着。3年後は芦毛の名馬
タマモクロスが2着で
オグリキャップが3着、4年後は
オグリキャップが世界レコード(2分22秒2・現在は
アーモンドアイの2分20秒6)の2着と健闘するも、
ホーリックスにクビ差届かなかった。この3頭以外の日本馬好走はなかった。
これに加えて、
トウカイテイオーに過去の強さが見られない。状態が下降しているのは誰の目にも明らかであり、加えてこれまでにない強敵が相手だ。
ただ、いくつかの光明もあった。
トウカイテイオーが制した
日本ダービーの勝ち時計2分25秒9は、それまでのダービー史上2番目の好タイムだった。父のルドルフもダービーと同コースの
ジャパンCでは3着と1着。
当時、東京2400mの4歳(現3歳)&古馬GIレースを制した名馬はルドルフのみだったが、後に
スペシャルウィーク、
ジャングルポケット、
ディープインパクト、
ウオッカ、
ブエナビスタ、
ジェンティルドンナ(2勝)、
アーモンドアイ(2勝)、
コントレイルが制している通り、ダービー&
オークス馬にとって同コース同距離の
ジャパンCはプラス材料だ。
それでも、全盛期の力が失われているのは誰の目にも明らかで、「さすがに勝てない」と感じた競馬ファンは、
テイオーの支持率を大きく下げた。
パドックで目にした
テイオーは、前走の天皇賞とさほど変わらない感じもした。「好調期の状態にはない」と感じた私は、
ユーザーフレンドリーからの馬連を勝負して、
テイオーの単勝を応援馬券として買った。一緒にいたトラックマンも「外国馬のほうがよく見える」とつぶやいていた。
大外14番枠から好スタートを切った
テイオーは5番手につけた。位置取りとして悪くはないが、前走の天皇賞でも3番手を進み後続勢に差されている。前半1000m通過は60秒3。前走の57秒5より3秒近くスローであり、この展開は前の2頭を見ながらレースを進める
ユーザーフレンドリーに有利だ、と感じた。
先頭の
レガシーワールドが直線に入った瞬間、
ユーザーフレンドリーが同馬を射程圏内に入れた。しかし、前半から折り合いが悪く早くも押し出す
ユーザーフレンドリーを左に見ながら、外を走る
トウカイテイオーは持ったまま。内の
ナチュラリズムが追い始めた直後、追い出した
テイオーは頭一つ抜け出した。
テイオー行け! と多くのファンが叫ぶ中、
テイオーは先頭でゴールイン。勝つときは常に1頭抜きん出てきた
テイオーは、初めて追い比べを制して見せた。
普段は冷静な岡部幸雄騎手も、珍しく両手を挙げて喜びをあらわにした。道中の手応えから下した「勝てる」「いける」との判断が的中した嬉しさだったのかもしれない。
テイオーは日本馬3頭目の
ジャパンC優勝を達成した。勝ちタイム2分24秒6は、重馬場としては優秀な時計であり、前年(良馬場)の優勝馬
ゴールデンフェザントの勝ち時計とコンマ1秒しか違わない。勝因を挙げるとすれば、
テイオーの持つ底力だろう。「本来のデキにはない」状態で、並み居る強豪馬を破ってしまった。その勝ち方は美しく、
テイオーのファンをまたも引き寄せた。「日本馬は外国馬に劣らない」と感じたファンも多かったはずだ。
翌年以降、
レガシーワールドと
マーベラスクラウンがこのレースを制し、10年後には日本馬の独壇場となっていく。
ジャパンCの歴史のターニングポイントとなったレースでもあった。
(文=後藤豊)
今回は星海社のご厚意により、本書を5名の方にプレゼントいたします。
下記、応募フォームよりふるってご応募ください。
応募期間は2025年4月11日(金)23:59まで。皆様からのたくさんのご応募、お待ちしております。