格上挑戦での重賞Vは近年でも時折見かけるが、だいたいは3勝クラスからのチャレンジである。
今村聖奈の初重賞制覇で話題となった22年
CBC賞勝ちの
テイエムスパーダも、前走で2勝クラスを勝ち、3勝クラスに昇級した上での重賞制覇だった。
ところが今回の主役・
マックロウは2勝クラス(当時900万)2着から、3勝クラス(同1600万)を飛び越えての大胆すぎる格上挑戦。それでも快勝してしまったからファンは驚いた。
14頭立ての11番人気。正直、勝つイメージの湧くタイプではなかった。馬体に弱いところがありダート戦でデビュー。新馬戦では実に勝ち馬から4秒離された8着。500万(現1勝クラス)卒業に6戦を要した。
芝に転じた2勝クラスでも2着を3度続けた。好位で立ち回って直線でも先頭をうかがうが、ひと押し足りない。後から思えば「相手なりに走る」とも表現できるが、当時は“あと一歩足りないタイプ”と思われていた。
そして
京都記念。メンバーは非常に濃かった。1番人気は99年
菊花賞馬
ナリタトップロード。その
菊花賞以来、白星に恵まれていなかったとはいえ、前年の
京都記念で
テイエムオペラオーの首差2着。連は外しそうになかった。
2番人気は00年ダービー馬
アグネスフライト。こちらもクラシック制覇の後は白星がなかったが、
ジャパンC13着から間隔を空けて立て直し、力を出し切れば当然、上位争いと思われた。
ただ、こうも言える。格上2頭はクラシック制覇以来、ここまで白星がなかった。松田博資師を筆頭とした陣営が“チャンスあり”とみて
マックロウを出走させたのは、そのあたりに理由があったのかもしれない。
そして、安田康彦騎手も騎乗に一工夫加えた。それまで好位でレースを進めてきた
マックロウだが、全く行く気を見せずに下げた。向正面では1頭だけレースに参加していないようにも映った。だが、安田康騎手は息を潜め、好機をうかがっていた。
3角過ぎの下り。道中、後方から2番手に位置していた
ナリタトップロードがスパートをかける。
マックロウも
ナリタトップロードを追いかけてスピードを上げた。
直線を向く。外から先団を捉えにかかる
アグネスフライト。その外から並びに行く
ナリタトップロード。さらにその外から来たのは…人気薄の
マックロウだった。
外の3頭。内から
アグネスフライト、
ナリタトップロード、
マックロウの叩き合い。こうなれば大外の馬が有利だ。残り100メートルで堂々と先頭に立った
マックロウ。クラシックホース2頭を振り切ってゴール。「勝ったのは4番の
マックロウ、場内騒然です!」。実況マイクからも場内がザワつく様子が伝わってきた。
「馬任せで行ったら、あの位置になった。先に行くと末が甘くなるのでね。直線ではかわせると思ったよ」。安田康騎手は語った。さまざまあって早々と引退したが時々、こういった常識破りのひらめきで穴馬券を提供する騎手だった。この
京都記念は、その真骨頂といえた。
マックロウ突然の激走の要因をもうひとつ挙げるなら、その血統かもしれない。
父トニービン、母は
アンティックヴァリュー。全姉は93年
桜花賞、
オークスを制した
ベガだった。その
ベガも松田博厩舎の管理馬だった。関係者は、そろそろ“走り頃”だと感じていたのかもしれない。
その名牝
アンティックヴァリューは
マックロウを生んだ4日後に急死した。“いつか重賞に出る時は背中を押してあげるからね”と母が天国からささやいていたのだろうか。名牝とはこの世を去った後でも大仕事をするようだ。
スポニチ