ベタで申し訳ない。
ナリタブライアンと
マヤノトップガンの火の出るような追い比べ。平成の競馬の中でも屈指の名勝負とあって、ご存じの方も多いと思うが、新しめのファンの方のために、改めて取り上げたい。
10頭立て、良馬場の大一番だった。1番人気は
マヤノトップガン。今でいう4歳馬。前年秋は3番人気で
菊花賞を制し、
有馬記念は6番人気ながら逃げ切った。4歳春を迎え、大目標の天皇賞に向けて、ここは負けられないところ。単勝2.0倍。
一方の
ナリタブライアンは言わずと知れた3冠馬。無敵の進撃を誇ったが、95年
阪神大賞典優勝後に股関節炎を発症。
天皇賞・秋で12着に敗れた。だが、そこから徐々に持ち直し、
ジャパンC6着、
有馬記念は4着(1着
マヤノトップガン)。そろそろ立ち直ってきたか、と思わせた。2番人気ながら単勝2.1倍。
マヤノトップガンとさほど変わらぬ人気を集めた。
そしてレースは最初から最後まで2頭による競馬だった。4番手の外で、いつでもスパートできる位置を占めた
マヤノトップガン。その直後、スパートした瞬間についていくぞ、という姿勢を見せた
ナリタブライアン。
2頭に動きが見られたのは2周目の3角。
マヤノトップガンが動いて早くも先頭に立つ。すかさず、
ノーザンポラリスと並んで
マヤノトップガンを追いかけた
ナリタブライアン。この時の競馬場内の歓声は凄かった。「うおお」という数万の声が今もネット越しに伝わる。
この時点でラップは11秒台前半。
ノーザンポラリスはついていけず、2頭だけの競馬となった。2頭並んで直線を向く。全く並んだまま。「
ナリタブライアンか、
マヤノトップガンか。
マヤノトップガンか、
ナリタブライアンか」。名実況が観衆をあおり、競馬場が
ヒートアップした。
残り100メートルを切ったところで、わずかに
マヤノトップガンが出たように見えた。だが、そこからミラクルが起こる。ゴールまで残り2完歩。
ナリタブライアンがグイッと前に出た。「どちらか?分からない」。実況はそう
アナウンスしたが、鞍上の2人は分かっていた。
ナリタブライアンの
武豊騎手は右腕で
ガッツポーズをつくった。
「絶対に負けられないと誓って乗りました。ゴールの瞬間、鳥肌が立ちました」。
武豊騎手は語った。それは場内5万9896人の大観衆も同じだった。筆者はレース後、手のひらに汗をかき、ゾクゾクとした熱い思いが体を貫いていた。
ナリタブライアンにとって、これが最後の白星となったが、この勝利の意味は大きかった。やっぱり
ナリタブライアン。そう思わせるに十分だった。そして、勝つべき一戦で、いったんは窮地に陥りながらも勝ち切る
武豊騎手。名手の凄みを存分に見せつけた一戦だった。
スポニチ