春G1シリーズの水曜企画は「G1追Q!探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけて本音に迫る。春の短距離王決定戦「第55回
高松宮記念」は東京本社の出田竜祐(44)が担当。
ウイングレイテストの
松岡正海騎手(40)に「相棒への信頼」「仕事観」「念願の頂点」の3テーマを問う。
3走前
スプリンターズS14着、2走前阪神C17着と大敗続きだった
ウイングレイテスト。ところが8歳初戦のオーシャンSで3着と健在をアピールした。当初予定していた
阪急杯からローテーションを変更したため、松岡は
ウインモナーク(5着)に騎乗。「前走は完調ではなく、たぶんパドックを見てもらっても馬体の張りが足りないと思った方もいると思います。でも、後ろから見ていて改めて力があるなと感じました」。愛馬の奮闘に誇らしげな松岡。1週前追い切りで八分の仕上げだった前走からの上積みを実感した。「能力の衰えは感じていません。経験を積んできているので、馬もやるべきことを分かっています。最後まで集中力を発揮できるように、準備運動から寸分の狂いもなく思った通りの調教ができるのがこの馬の強み」。10、11年連覇の
キンシャサノキセキ以来となる8歳Vへの手応えを口にする。
昨年、不惑を迎えた23年目の松岡。30歳手前で仕事に対する考え方が変化したと明かす。「若い頃は(レースで)一番を目指して頑張っていたけど、年を取るにつれて調教を大事にするようになりました。今でも松山先生(康久元調教師=14年引退)には“松岡、(調教は)最後の1ハロンだぞ”と口酸っぱく言われます。普段の調教の結果が競馬に出るっていうふうに思っています」。
07年
ヴィクトリアマイルを
コイウタで制し、G1初制覇。10年には年間109勝を挙げ「毎週勝っていくしんどさも知っています」。ただ、レースだけではなく「細かいところにこだわるのが面白くなってきました。馬を細かく研究していって、やっぱ競馬って奥深いなと思い始めたのが30歳くらいです」。馬についてどんどん詳しくなり、調教の引き出しが増えていく。それが楽しくてたまらない。「毎週勝っていく武(豊)さん、戸崎(圭太)さん、川田(将雅)君とかも凄いなとは思います。でも僕みたいな仕事もあるなって思いながらやっています。攻め馬をする時は遊園地みたいな気持ちで、あの馬どうかなと思いながら仕事に行きますよ」と笑う。馬づくりに没頭する毎日だ。
ウイングレイテストとは19年夏のデビュー以前からの長い付き合い。「入厩前に乗る機会があった際に凄い能力を感じた。(香港G12勝の)
ウインブライトの次はこの馬だなって、自分の中ではありました」と振り返る。キャリア39戦のうち28戦に騎乗。通算13連対は全て松岡の手綱だ。
デビュー以来、マイル中心に使われてきたが、転機は6歳秋。23年
京成杯AH(中山芝1600メートル)で後のG1馬
ソウルラッシュに首差で敗れたのがきっかけだ。「しまいが思っているよりも(集中力が)足りないかなって。精神的なフレッシュさがなくなって、短い距離の方が飽きずに最後までゴールを迎えられるのかな…と」。ずっと乗ってきた相棒だからこそ感じた変化。続いて臨んだ1F短縮の
スワンSで初の重賞タイトルに手が届いた。その後も昨年の函館ス
プリントS、
アイビスSDで2着と千四以下で実績を積んだ。そして再び、短距離王を決する舞台に立つ。「G1と言えばゴール。
ピラミッドの頂点みたいなところ。世代別で何頭も出られないし、そういう中に入っているだけでも凄いこと。もう一つ高みを目指したいなと思っています」。唯一無二のパートナーと、念願のゴールを目指す。
◇松岡 正海(まつおか・まさみ)1984年(昭59)7月18日生まれ、神奈川県出身の40歳。03年に美浦・前田禎厩舎所属でデビュー。同3月1日中山12R
プラチナウィンクで初騎乗(14着)。同23日中山12R
デュエットシチーで初勝利。05年ダイヤモンドS(
ウイングランツ)で重賞初制覇。19年には
ウインブライトでクイーンエリザベス2世C、
香港Cと香港G1・2勝。
JRA通算899勝(重賞35勝、うちG1・2勝)。
【取材後記】
ウイングレイテストの性格は?相性は?松岡に問うと「基本走りたくないみたいな感じ。ただ、呼吸を合わせたらよくやってくれるみたいな。攻めもよく動きます。でも、普段はマイペースで僕が行っても喜ばないです。
ツンデレ?デレはないよね。仕事仲間としてはいいけど、友達としては成立しないみたいな」と笑う。いつかのドラマや漫画で目にした名コンビをほうふつとさせる。「調教においては、この馬では僕よりうまくできる人はいないんじゃないかなというくらい分かっているつもり。攻め馬という意味では凄い勉強をさせてもらいました。(馬の引退後も)たまに思い出す馬じゃないかな。ああ、
グレイテストに似ているなって。指標というか、自分の中で道しるべみたいな感じの馬だと思います」。パートナーへの思いは尽きない。(出田 竜祐)
スポニチ