日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社・鈴木悠貴(33)が担当する。スマホ不適切使用による9カ月の騎乗停止から今月復帰した
水沼元輝(22)。その水沼をサポートし続けた
西田雄一郎師(50)に取材し、その意図を聞いた。
3月1日。スマホ不適切利用による9カ月の騎乗停止処分から復帰した水沼。「ジョッキーを辞めたい」とまで思った彼に、救いの手を差し伸べたのは西田師=写真=だった。「開業当初から調教に乗ってもらっていたし、彼の初勝利もうちの馬だったからね。やってしまったことはやってしまったこととして、大事なのはこれから。まだまだこの世界を知らないだろうし、辞めるのはもったいない。今後どうしたらいいか分からないだろうから、うまく軌道修正してあげないといけないと思った」
騎乗停止中でも厩舎の調教騎乗をほぼ毎日依頼。水沼に宿る“競馬熱”を決して失わせなかった。また、水沼がお世話になっているミル
ファームへの訪問を指南。牧場関係者に謝罪や感謝を伝えるとともに、競馬に携わる人たちの苦労を知ってほしかった。「牧場でのみんなの働きぶりを見れば、ジョッキーが最後のバトンを渡されている存在だということに気づく。それを分かるだけでもいいことなんです。水沼が乗っていたら応援したい。牧場訪問によってそう思ってくれる競馬関係者が増えて、その人たちと1勝の喜びを分かち合う。それがこの世界の醍醐味(だいごみ)ですから」
水沼を助けたい。そう思ったのは、自らも過去に“過ち”を犯しているからだった。西田師はジョッキー時代の98年、道路交通法違反(スピード違反)がもとで翌99年に騎手免許を自主返納。その後、5年間の牧場勤務を経て免許を再取得した。「自分の時は多くの人が助けてくれて応援もしてくれた。だから、僕も少しでも手助けできればなと思った。水沼も後輩が何か起きた時に手助けできるような人になってほしい」
近年、スマホ不適切使用などの問題によって何人かの若手騎手が競馬界を去った。西田師は「人に迷惑をかけることはもちろん良くない」としつつ、ミスを犯してしまったジョッキーには挽回のチャンスがあってもいいと話す。「今は一つの失敗で“辞めろ辞めろ”と叩かれるけど、この世界はそれで辞めてほしくはない。甘いと言われるかもしれないけど、僕らがきっちり方向を修正をして“この子、変わったね”と言われるようにしてあげるべきなんです。水沼もしっかり変わってきていますから」。西田師に救われた水沼は、一歩ずつ着実に再起の道を歩んでいる。
◇西田 雄一郎(にしだ・ゆういちろう)1974年(昭49)10月14日生まれ、神奈川県出身の50歳。95年、美浦・境征勝厩舎から騎手デビュー。20年12月に
JRA調教師試験に合格。22年3月に厩舎開業。同21日の中山7R(
リリーブライト)で調教師として初勝利。
JRA通算680戦33勝。
◇鈴木 悠貴(すずき・ゆうき)1991年(平3)4月17日生まれ、埼玉県出身の33歳。千葉大法経学部を卒業後14年にスポニチ入社。23年1月から競馬担当。
スポニチ