23年の
レディスプレリュード・Jpn2など、ダート重賞を3勝した
アーテルアストレア(牝6歳、栗東・
橋口慎介厩舎、父
リーチザクラウン)が4月9日午前、栗東トレセンを退厩した。今後は北海道安平町の追分
ファームリリーバレーで繁殖牝馬となる。
新馬戦から担当してきた酒井慎調教助手は「ほんまに(別れが)しんどい」と迎えの馬運車が来る前から涙ぐみ、別れるまでのわずかな時間を惜しんだ。競馬ファンからも“あーちゃん”の名で親しまれ、ラストランとなった4日の
兵庫女王盃・Jpn3(2着)でも多くのファンが現地で応援した。「小学校3、4年生くらいの男の子も応援してくれたこともうれしかったし、裕二(菱田騎手)の悔しそうな姿やファンの声援も含めて、負けたけど一番いいレースだった」と同助手は印象的な一日を思い出していた。
SNSで酒井助手が積極的に発信してきたことで、競馬ファンの人気を得た。「自己満足で、大好きなアーテルの写真や動画を載せていたけど、どんどんファンが増えた」。もちろんそれだけではなく、馬自身の性格も人なつこくて愛されるキャラクター。チャンピオンズCやフェブラリーSで牡馬相手に善戦するなど、強さも兼ね備えていた。「この仕事はやりがいがあって、楽しいということをこの馬に教わった」。手をかけたぶんだけ、
アーテルアストレアはこたえてくれる馬だった。
記者もこの人馬から多くのことを学んだ。言葉は理解できないかもしれないが、人の気持ちは馬に伝わるのだということ。特に
兵庫女王盃を現地で取材したことは財産だ。涙する酒井助手を見ていると、今までの思い出がよみがえった。気がつくと記者も涙していた。
栗東トレセン周りの満開の桜並木に見守られて、“あーちゃん”は第二の馬生のために北海道へ旅立った。手を振って見えなくなるまで馬運車を見送った同助手は「競馬はドラマやからね」とつぶやき、涙をぬぐった。いつかまた、母によく似た子が、酒井助手のもとに戻ってくることを楽しみにしている。(
中央競馬担当・山下 優)
スポーツ報知