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そこだけ異次元だったタタソールズオクトーバー

  • 2008年10月14日(火) 19時50分
 わずか1週間前に自分が書いた内容と、ほぼ正反対のことを書くのは、実に忸怩たる思いなのだが、起きた出来事を正確に伝えるのがジャーナリズムゆえ、記さねばなるまい。

 10月7日から9日まで、英国のニューマーケットで行われた欧州最高の1歳馬セール「タタソールズ・オクトーバーセール・ブック1」は、平均価格がほぼ前年並みの121,515ギニー(前年比4.5%ダウン)で、中間価格が前年比6.25%アップでこの市場のレコードとなる85,000ギニーという、市場関係者の誰一人として予測していなかった強いマーケットとなった。

 前回のコラムでも触れたように、世界経済は今、金融危機で瀕死の状態にある。ここ英国でも、セール開催前日(10月6日)の株式市場が8%も下落。アメリカ同様に政府の緊急対策が発動されるというタイミングで開催されたのが、オクトーバー・ブック1だったのだ。重箱の隅の隅まで突いたって、マーケットにとって追い風となる材料は見当たらず、指標で言えば平均価格が2割以上落ちて10万ギニーの大台を割り込む局面が想定されていたのである。

 思いがけぬ好況をもたらした要因は何か。

 一部には、金融市場もダメ、株式市場もダメ、商品市場もダメ、不動産もダメで、行き場を失った漂流マネーが安全な投資先と見なされたブラッドストック・マーケットに流れ込んだ、との見方がある。

 だが、最も顕著だったファクターは、シェイク・モハメドを筆頭としたマクトゥーム家による買い支えであった。シェイク・モハメドの代理人ジョン・ファーガソン氏が、3日間で購入した1歳馬は51頭。総額で934万2000ギニーにも上る投資を行ったのだ。前年のこの市場におけるファーガソン氏の購買は総額489万2000ギニーで18頭だったから、額でいうとほぼ2倍の大幅なスケールアップである。更に、兄のシェイク・ハムダン率いるシャドウェル・エステートが、23頭を総額444万ギニーで。マクトゥーム家の縁者や友人が持つ馬を購入するエージェンシーのラバー・ブラッドストックが、32頭を総額176万3000ギニーで購入。これらを合計すると、全売り上げの31.2%に到達するから、その貢献度が極めて大きかったことは明らかだ。

 シェイク・モハメド、シェイク・ハムダンとも、御本人がせり会場にお出ましになり、これはと目をつけた逸材のリクルートに乗り出した他、ご自身が所有する種牡馬の産駒を積極的に購買されていたから、こういうご時世ゆえ市場を支えようという明確な意図があっての投資であったことは間違いなさそうである。

 ただし、最高価格馬を手に入れたのは、マクトゥーム家ではなかった。65万ギニーというセール最高価格で購買されたのは、最終日の9日に上場された父モンジューの牡馬。母がG2ロウザーS2着のダナスカヤ(その父デインヒル)で、購買したのは馬主のベニー・アンダーソン氏だった。「馬主の」と紹介するよりは、「元アバのメンバー」と紹介した方が、世間的には通りが良いだろう。アンダーソン氏は馬主歴28年というベテランで、オクトーバーセールでは毎年その姿を見かけることが出来る常連である。同馬は、ジョン・ダンロップ厩舎からデビューすることになるようだ。

 この最高価格馬を筆頭に、売れ行きが絶好調だったのがモンジューで、この3日間に19頭が平均240,947ギニーで購買された。ちなみに、平均購買価格のトップ3は、1位・モンジュー(240,947ギニー)、2位・ピヴォタル(205,739ギニー)、3位・ガリレオ(平均184,276ギニー)で、このあたりが現在の欧州における売れ筋御三家と言えそうである。

 ただし、最高価格が100万ギニーを大台を切ったのは、1997年以来のことで、逆に言えば中間価格に分厚い需要があった、極めて健康的な市場であったと言えよう。

 一方、こういうソリッドなマーケットになると、残念ながら日本人購買者は厳しい状況に立たされる。3組ほどの参加があったのだが、日本人によると見られる購買はゼロだった。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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