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北米に続き英国の主要市場も大暴落

  • 2008年12月09日(火) 23時50分
 12月1日(月曜日)から4日(木曜日)まで、英国のニューマーケットで開催された、欧州最大にして最高の繁殖牝馬セール「タタソールズ・ディセンバーセール・牝馬セッション」は、総売り上げが前年比52.1%ダウンの3,335万ギニー(1ギニー=約145円、12月9日現在)、平均価格前年比40.1%ダウンの54,681ギニー、中間価格が前年比45.7%ダウンの12,500ギニーと大幅な下落を見た。ただしバイバックレートは、前年32.7%だったのが今年は31.8%と、数字に若干の良化が見られている。

 悪化しつつあった世界景気が9月を境にクラッシュし、洋の東西を問わず競馬の世界にも深刻な影響を及ぼしつつある中で行われたこのセールには、関係者も相当の覚悟を持って臨んでいたが、想定していた中でもかなり悪い方の数字が出たと言えそうだ。

 最高価格は、初日に登場した上場番号1780番の3歳牝馬シーシャアブー(父ミスターグリーリー)。2歳時に、牡馬を破ったG1フィーニクスSを含めてG1・2勝。今年春の英1000ギニーでも3着になっている強豪である。複数の購買希望者による争奪戦の末、195万ギニーでシェイク・モハメドの代理人であるジョン・ファーガソン氏が購買した。

 ファ−ガソン氏によると、いとこにバランシーン、近親にウェストウィンドと、シェイク・モハメドが所有したクラシックホースが同じ牝系にいることが購買の決め手になったという。シーシャアブーはこのまま現役を引退。シーシャアブーの父の父ゴーンウェストの牝馬にモンジューとの配合によって英国ダービー馬のモティヴェーターが誕生していることから、シーシャアブーには来春、モンジューの有力後継馬として期待の高いオーソライズドが交配される予定だという。

 この最高価格馬を含めて、高額購買馬の上位3頭は、揃ってシェイク・モハメドによる購買だった。

 前述したように、今年の9月以降、世界のブラッドストック・マーケットは急速に値を下げて、ディセンバーセールを前にした段階でも明るい材料は何1つ無かったのだが、そういう状況を踏まえてなお関係者が悲観的だったのは、11月に入って世界を駆け巡った1つのニュースが原因だった。全ての競馬関係者の心肝を寒からしめたニュースとは、「ドバイの金融危機」である。世界経済から隔絶されたかのごとく、そこだけ急成長を遂げてきたドバイの経済がついに逼迫。金融状況の悪化から国内の資産価値が4割も目減りし、建設ラッシュを牽引してきた大手ディヴェロッパーのナキール社が500人を解雇するとともに、進めているプロジェクトの見直しを行うことが明らかになったのが、ディセンバーセールの直前だったのだ。10月のタタソールズ・オクトーバーセールを最も顕著な例として、ここ最近の欧州競走馬市場を支えていたのは明らかにシェイク・モハメドをはじめとしたマクトゥーム家であり、彼らの存在なくしては産業そのものが成立しないというのが、関係者の共通認識だった。ドバイの金融危機はマクトゥーム家の購買にも大きな影響を及ぼすのではないか。だとしたら、ディセンバーセールは大変なことになる、というのが、関係者の抱いていた危機感だった。

 ところが蓋を開けてみれば、シェイク・モハメドは良血馬に対して、これまでと変わらぬ貪欲な姿勢を見せてくれた。考えてみれば、資産価値が目減りしたとはいえ、もともと保有していた額が半端なものではなく、懐には好きな馬を買うぐらいのゆとりは余裕にあるのだろう。競馬関係者としては、まずは胸をなでおろしたいところだ。

 それでもなお、ディセンバーの指標が想定範囲の最低水準に留まったのは、マクトゥームに拮抗するはずの大口バイヤーが、完全なる沈黙を貫いたからであった。マクトゥームと並ぶ世界競馬の2大巨頭と言われるクールモア・グループが、4日間の牝馬セッションを通じて1頭の購買も行わなかったのである。

 クールモアとて景気の波とは無縁ではなかろうし、本業以外に資産を様々に運用することで巨万の富を築いてきた人たちだから、株を筆頭にあらゆる相場がダメという昨今の状況を鑑みれば、打撃は相当に深いのかもしれない。それにしても、ディセンバーの牝馬セッションで購買ゼロというのは誰も想定していなかった事態で、今後はクールモアが沈黙を破るのはいつかが、市場を占うキーワードの1つとなりそうだ。

 そんな中、日本人によると見られる購買は、平均112,750ギニーで12頭だった。フランス調教馬で地元のG2ドラール賞優勝がある他、香港に遠征してG1香港C・3着の成績のある6歳牝馬ミュージカルウェイ。昨年のG1愛1000ギニー2着馬ディメンティカタ。欧州でG1・2勝のサデックスの2つ年下の妹にあたる3歳牝馬ルドラ。愛オークス馬ピュアグレインの直仔で、ディラントーマスの初年度産駒を受胎している10歳牝馬ゴンチャローヴァ。今年、英国と愛国の2000ギニーでいずれも3着となったスタッブスアートの母で、ホークウイングを受胎している8歳牝馬リッチダンサーなど、日本の血脈に新風を吹き込んでくれそうな好素材が、多数導入される予定となっている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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