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英国BBC、競馬中継の規模縮小か

  • 2008年12月23日(火) 23時50分
 スポーツを興行として考えた場合、メディアにどれだけ取り上げてもらえるかが成否のカギを握る重要なファクターであることは言うまでもない。中でも、広くて強い訴求力がある「テレビ媒体」における露出は、インターネットを通じてやりとりされる情報量がこれだけ莫大なものとなっている今日においても、絶大な影響力を持っていると言わざるをえまい。

 同じテレビ媒体でも、CSではなく地上波での露出があればそれに越したことはなく、更に言えば、乗っかる電波が民放ではなく国営放送ならば、そのスポーツを見る人々の目も様々な意味で違ってこようと言うものである。

 競馬発祥の地イギリスで今、国営放送のBBCにおける競馬中継が、議論の的となっている。イギリスでは、BBCと民放の「チャンネル4」が開催競馬場を上手に分け合いながら、地上波における中継を長らく行ってきたのだが、このうちBBCにおける中継本数が2009年から2010年にかけて大幅な減少となることが、今後の放映権利を巡る交渉過程において、明らかになったのである。

 具体的には、現段階でBBCが2010年に予定している生中継は、障害のグランドナショナル、平地のオークス、ダービー、ロイヤスアスコット、キングジョージなど、年間で14日となっている。2008年は年間で29日の中継があったから、このまま新たな契約が結ばれると、中継数は半減することになるのだ。時計の針をもう少し戻すと、西暦2000年の段階でBBCの中継数は年間で79日もあった。つまり、ここ10年の間で65日もの中継が失われ、比率としては5分の1以下になるという、競馬産業にとってはまさに由々しき事態が進行しているのである。

 中継を減らす理由に関してBBCは、グランドナショナルとダービーを除けば視聴率が稼げないこと、2012年のロンドン五輪へ向けて五輪種目の放映に力を注ぎたいこと、などを挙げているが、これはこれでもっともな話である。

 もう20年以上前のことになるが、私は競馬中継を行っている在京民放キー局に勤務していたことがあって、現場で主に競馬中継の制作に携わっていたのだが、一方で営業セクションにいた時期もあり、競馬中継の扱いについてはおおいなるジレンマに陥った経験をもっている。言うまでもなく私は競馬好きだから、自分の勤める局で競馬中継が行われることは大歓迎であった。その一方で、残念ながら競馬中継というのは視聴率の稼げる番組ではない。局の営業的見地から捉えると、週末の午後という競馬中継が組まれている時間帯は、ゴールデンやプライムと呼ばれる夜の時間帯の次に高く売れるゾーンで、そういう「売れ筋」の時間帯に視聴率のとれない番組があると、営業的にははっきり言って邪魔であった。

 また、五輪放送というのは局にとって4年に一度のビッグイベントで、自局で放送できる種目については、できるだけ盛り上げておきたいというのも、局としては非常にまっとうな方針である。ただし、それはあくまでも局の立場に立った見方である。競馬産業の見地から捉えると、繰り返しになるが、BBCを巡る今回の騒動は実に由々しき事態である。

 BBCというのは国営放送である。国営放送といえども収支バランスは考えねばならないし、視聴率はおおいに意識しなくてはならないのだが、民放とはおおいに事情が異なってしかるべきだ。国営放送ならば、国技とも言える競馬にもっと理解があってよいはずだと、競馬ファンとしては切に思う。

 ということで英国では今、競馬日刊紙のレイシングポストが音頭をとって、BBCの競馬中継削減方針に異を唱えるキャンペーンが行われている。果たして、競馬サークルの声は国営放送上層部に届くのか。推移を注意深く見守りたいと思う。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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