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2歳トレーニングセール、はじまる

  • 2009年03月06日(金) 11時00分
 アメリカで2歳トレーニングセールが本格的にはじまった。

 日本人と見られる購買者による個別の購買馬については、合田さんなどにヒヤリングしてから赤本で詳しく記すとして、今回はセールの全体像について書いてみたい。

 まず、バイヤー側の弾幕が薄くなっていることはいまさら言うまでもない。イヤリングセールに続き、2歳セールでも総額・平均購買額は大きく落ち込んでいる。

 先だって行われたOBS2月セールは売却率こそ悪くなかったが、総額・平均購買額は前年の2/3に落ちた。

 そして終わったばかりのファシグティプトンコールダーセール。前年と比較すると売却頭数(セリ後の公式購買含む)こそ102頭→111頭と微増したものの、総額は3510万ドル→2615万ドル、平均が34.4万ドル→23.6万ドル、中位値が23万ドル→15万ドルと大きく下落した。最近はすべて3分の2が相場になってきた感がある。

 海外、特にアメリカのサラブレッド市場は一時期加熱しすぎていた面もあるので一定水準までは調整やむなしとも感じるが、それだけでなく、今回のフロリダを見るとどこか不健全な状態が目に付く。

 ひとつは、ダーレーのみが突出していることである。今回出たミリオン3頭はすべてジョン・ファーガソン。その他も含め6頭で計519万5千ドルという購買額は、全体の20%近くにも及ぶ。ひとりの購買者にここまで依存するセリというのは永続可能なのだろうか?

ダーレーも種牡馬ビジネスが細ればここまでの派手な買い方はできなくなるだろうし、仮にそれでも続けたら昨今の経済情勢から欧米諸国、さらにはいざという時のケツ持ちであるアブダビもいい顔をしない可能性がある。

 話はダーレーだけでなく、Westrock StablesやPaul Coleなど、少数購買者の寡占が進んでいる。これも将来に向けて、明るい材料とは言い難い。

 対照的に、低価格層の主取り率が高いことも気になる。今年は仕入れが安く、かつコンサイナーも贅沢は言わないということで、本来ならば安めの層が活性化してもおかしくなかった。しかし現実には、10万ドル未満のお買い得品が売れ残りまくり。ちょっと前までの「超大金持ち」や「大金持ち」がなんとか馬主を続けている一方で、「中金持ち」「小金持ち」がドロップアウトしている様子が見てとれる。

 最後にこれはなんとかならないかと思うのが、スクラッチする馬の多さだ。今年はカタログに掲載された272頭のうち、実に3分の1にあたる91頭が欠場した。本当にハ行した馬もいるだろうが、多くはいわゆる「下で売った」という形と推測される。これがまかり通るようだと、新規購買者の参加が減る一方だ。

 全体のシュリンク、一部購買者の寡占、低価格帯の荒廃、欠場馬の多さ……合田さんの言葉で言うところの「ヘルシーじゃない」要素が全て集まったようにも見える。

 ただそれは一方で、セール慣れしている日本人購買者にとってはチャンスでもある。以前より安くいい馬を買える「隙」が生じているからだ。今年はおなじみのエーシン、ノースヒルズ、松山師、和田師といったところに加えて社台ファーム、ノーザンファームも1頭ずつを購買した。このところ海外トレーニングセール組が久々に好調でもあり、赤本のセールコーナーを読む価値も高まっているのではないだろうか。


※次回は3/20(金)に更新いたします。

筆者:須田鷹雄
 1970年東京都生まれ、東京大学経済学部卒業。POGの達人としても知られ、監修を務める“赤本”こと「POGの達人」(光文社刊)は、POGユーザー必携の書と言われている。netkeiba.comでは「回収率向上大作戦」も担当している。


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