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2000ギニー馬シーザスターズの豪華な血統背景

  • 2009年05月06日(水) 11時59分
 5月2日にニューマーケットで行われた英国3歳トリプルクラウンのファーストレッグ・2000ギニーは、6番人気のシーザスターズ(牡3歳、父ケープクロス)が優勝した。3月半ばに熱発を起こし、一時は間に合わないかと言われていた馬だが、何とか参戦に漕ぎ着けてのクラシック制覇となった。

 その牝系は、ゴージャスのひと言に尽きる。

 母は、1989年生まれのアーバンシー。93年の凱旋門賞馬で、その年のJCにも来日しているから、御記憶のファンもたくさんおられることだろう。当日の馬体重428kg。小柄というか華奢な馬で、くすんだような栗毛の馬体は、お世辞にも風采が良いとは言えぬ印象を持ったことを覚えている。

 その母アレグレッタはドイツの名門牧場シュレンデルハンのオーナーブリーディングホースで、ドイツの名門血脈を背景に持っているとは言え、この馬体だし、不良馬場の中を13番人気で制した凱旋門賞も当時はフロック視されていたしで、この馬が繁殖で成功すると思っていた人は、そう多くなかったはずだ。

 ところが、産駒が走りだすや次々と活躍馬が出て、のみならず周辺の血脈からもA級馬が続出し、いまや世界でも最高の名血との誉れを授かるにいたったのだから、血の不思議は奥深いものがある。

 初仔は96年に生まれた父ベーリングの牡馬アーバンオーシャンで、この馬がG3ガリニュールSを制覇。2番子が、ラムタラが欧州に残した唯一の世代の1頭となる、97年生まれの牝馬メリカーで、これが愛オークス2着、英オークス3着の成績を残した。

 アーバンシーは子だしが良いとの評判を決定づけたのが3番子で、父サドラーズウェルズを配合されて98年に生まれた牡馬が、後に英愛ダービーに加えてキングジョージも制したガリレオである。ガリレオは御承知の通り現在、欧州のトップサイヤーとして君臨しているから、彼を通じてアーバンシーの血脈は世界の生産界に影響を及ぼしつつあるわけだ。

 更に99年に生まれた4番子が、ガリレオの全弟にあたるブラックサムベラミーで、これがG1タタソールズGCに優勝した。続く00年生まれのアティカスという牡馬は不出走で、母の子としては初の凡馬に終わったが、01年に生まれたガリレオの全妹オールトゥービューティフルが、G3ミドルトンSを制した他、英国オークスで2着に健闘。更に02年に生まれたのが、父ジャイアンツコーズウェイの牝馬マイタイフーンで、彼女は北米で走ってサラトガのG1ダイアナSを制し、母にとって3頭めのG1勝ち馬となった。

 空胎を1年挟んだ後、04年に生まれた父グリーンデザートの牝馬が、G3ブルーウィンドS・2着の成績を残したチェリーヒントンで、05年生まれの父グリーンデザートの牡馬が、欧州では不出走の後にカタールに輸出されたシーザレガシー。そして、06年に生まれたシーザスターズが今年3歳となって、母にとって4頭めのG1勝ち馬となったわけだ。

 そうこうしているうちに、00年にはアーバンシーの8つ年下の弟キングズベストが、英2000ギニーに優勝。翌年の01年には、アーバンシーの2つ年下の妹アレルトロワが産んだアナバーブルーが仏ダービーを制覇。同年夏には、アーバンシーの3つ年上の姉アンジレが産んだアンジレロが、この血脈の故郷ドイツでG1ドイツ賞を制覇。新しいところでは、07年のアレルトロワの孫にあたるタマヤズがG1ジャックルマロワ賞やG1ジャンプラ賞に優勝と、血脈のあちこちからG1勝ち馬が出て、アーバンシーのファミリーはまさに宝の山となったのである。

 産駒からG1馬4頭出現というのは、古来稀なる記録かと思うと、実は、極めて身近にこれを上回る大記録が存在する。

 カリッド・アブドゥーラのジャドモンドファームに、1991年生まれのハシリ(父カヤシ)という繁殖牝馬がいるのだが、この牝馬から、01年のBCフィリー&メアターフなどG1・3勝のバンクスヒル、03年のビヴァリーDSなどG1・2勝のヒートヘイズ、05年のBCフィリー&メアターフなどG1・2勝のインターコンチネンタル、06年のマンノウォーSなどG1・2勝のカシーク、そして08年12月にハリウッドターフCを制したシャンゼリゼと、5頭のG1勝ち馬の母となっているのである。

 ハシリはこの他、99年の仏2000ギニー2着馬で、現在は種牡馬として活躍するダンシリも輩出しているから、単純な数字的比較では、G1馬4頭プラスG1・2着馬2頭のアーバンシーを上回ることになる。ただし、ハシリの産んだ活躍馬は、ヒートヘイズ(父グリーンデザート)ただ1頭を例外として、父はおしなべてデインヒルだ。一方のアーバンシーは、サドラーズウェルズ、ジャイアンツコーズウェイ、ケープクロスと、3頭の異なる種牡馬との配合でG1勝ち馬を出し、なおかつ、ベーリング、ラムタラといった、種牡馬としては大成功したとは言い難い馬を交配されても活躍馬が出ており、繁殖牝馬としての価値はこちらの方が上という見方も出来るのだ。

 残念ながら今年3月1日、父インヴィンシブルスピリットの牡馬を出産した後、合併症で他界したアーバンシー。07年、08年は子が居ないため、今年生まれた彼女の遺児が、これからデビューするアーバンシーの産駒は、今年生まれた彼女の遺児ただ1頭となる。ハシリに並ぶ5頭めのG1勝ち馬となるかどうか、おおいに注目されるところである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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