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岡部幸雄さん来訪

  • 2009年10月14日(水) 12時00分
岡部幸雄さん来訪 

 10月9日(金)の夕方、かねてよりお招きしていた元騎手の岡部幸雄さんが浦河に到着した。招聘したのは浦河ポニー乗馬スポーツ少年団。来る11月8日、東京競馬場にて行われる「第1回ジョッキーベイビーズ」に、ポニー少年団から2人の小学生が出場することになっており、その技術指導や視察のためにお招きしたのである。

 岡部幸雄さんは、現役引退後、競馬社会から一歩退き、日本全国のみならず、海外にも熱心に出かけて、様々な活動をしている。とりわけ、日本各地に残る在来種に強い興味があるそうで、遠く沖縄まで足を延ばし、その様子がグリーンチャンネルの番組で放映されたのをご覧になった方もおられよう。今はJRAアドバイザーでもある。

岡部さんに揃って挨拶 

 午後5時に集合したポニー少年団の面々は、部班運動をしながら岡部さんの到着を待った。歓迎の横断幕も用意された。午後5時半。岡部幸雄さんが、ポニー少年団の練習場所になっている浦河町乗馬公園の屋内馬場に姿を現した。

 岡部さんは現役時代から体型が変わっていない(ように見える)。目深に帽子を被り、穏やかな微笑を浮かべながら、子供たちを前にしてまず最初に「どうぞよろしく」とあいさつをしていただいた。

 少年団の子供たちは全員が小学生なので、岡部さんの現役時代をよく知らない。どれほどすごい騎手であったかを子供たちに伝えるのはかなり大変で、それが保護者たちへの“宿題”でもあった。と、同時に、子供たちには練習後の懇親会で、岡部さんへの質問をひとつずつ考えて来るように、という課題も与えられた。

 むしろ緊張したのは保護者たちだろう。岡部幸雄さんについてはもう多くの説明を要しないほどの圧倒的な存在である。岡部さんの実績についてここで改めて触れ出すとそれだけで終わってしまうので省略させていただくが、とにかく、名手中の名手であるのみならず、あらゆる面において現役世代のお手本となった人である。残されている記録以上の功績があった伝説の人と表現しても差し支えない。

岡部さん、熱心に練習を見学 

 岡部さんは、約1時間半の間、熱心に少年団の練習風景をご覧になり、時折、子供に近づいて積極的に声をかけ、手綱の持ち方や姿勢などを助言された。

岡部さん、熱心に練習を見学 

 通常、ポニー少年団は毎週金曜日の夜が練習日である。現在、団員は26名。前述した通り、小学校1年生〜6年生が在籍しており、その他OBが一緒に練習に参加する。

岡部さんと少年団の記念撮影乗馬公園 

 この日はポニーと道産子など全部で馬が13頭、団員も大半が集まった。部班はポニー8頭で行う。岡部さんは「こんなにたくさんの訓練されたポニーが子供たちを乗せていて、しかも相当レベルの高いことをやっていることに驚きました」と率直な感想を述べられた。

 岡部さんは「乗馬普及の難しさは、人(指導者)と訓練された馬、そして練習場所。この3つが必要になるので、他のスポーツと比較するとかなりハードルが高い」と言う。「ここは馬産地という利点を生かせることは確かだけど、それにしても、よくこれだけの人数が集まって熱心に取り組んでいるものですね」とも。

 その後、会場を移し、岡部さんを囲んでささやかな歓迎会を催した。

 団員の子供たちが一列に並んで一人ずつ自己紹介をした後、岡部さんに質問する。子供らしく素朴な質問がたくさん飛び出し、それに岡部さんが懇切丁寧に答える、という場面がしばらく続いた。

 岡部さん自身も5人のお子さんの父親である。こういう形の年少者とのやりとりはおそらく決して嫌いではないのだろう。「何度くらい落馬しましたか」「一番記憶に残っているレースは何ですか?」などと次々に浴びせられる質問に微苦笑しながらも楽しそうに答えていただいた。

二日目の練習に参加した団員たち 

 翌10日(土)。今度は乗馬公園の外にある馬場で実際に競馬モードの練習を披露することになった。7頭がキャンターで馬場を一周し、その様子を岡部さんに見てもらうという趣向である。

練習用木馬 

 その後、会場の一角に訓練用木馬が運ばれてきて、一人ずつそれに跨った子供たちが実際の騎乗フォームなどチェックしていただいた。

 「子供たちは、みんなそれぞれとても上手で、細かいところを少しアドバイスするだけであとは自然に騎乗スタイルが出来上がってくるほどのレベルです。やはり、乗馬は始める年齢が若ければ若いほど上達しますね。体がやわらかいので、いつの間にか自分に最もふさわしいフォームが自然に身に付くんです」と岡部さんは言う。

木馬に乗る木村拓己君 

 ちなみにこの「木馬」は、かなりのすぐれもので、定価は70万円を超えるとか。東京に行く木村拓己君(小6)の父、木村忠之さんが懇意にしている美浦の某調教師から譲り受けたそうで、もっぱら室内トレーニング用として重宝されているらしい。

木村君を指導する岡部さん 

 「これは相当きつい運動になりますね。普通の人では1分もモンキー乗りの訓練をやれば足腰が立たなくなるほどの負荷がかかるはず。慣れた人でもせいぜい3分程度でしょう」と岡部さんが言う。しかし、木村家ではこの木馬で拓己君は毎日30分も練習しているとか。

 2日間を通じて岡部さんは「率直に言って大変驚きました。予想していた以上の高度な練習が行われていることに感動したほどです。全国的にもトップレベルの内容だと思います」と太鼓判を押された。

岡部さん、広瀬会長、根本明彦氏 

 岡部さんご自身も「はっきり覚えていないくらい子供のころから馬に乗せられていた」という。小学校1年生から子供たちを受け入れ、乗馬訓練にいそしむポニー少年団の練習風景をご覧になって「これくらいのことができればもっと乗馬の底辺が広がるはず」と仰っていたのが印象的だった。

 岡部さんはひじょうに謙虚で控え目な方である。実際にお会いしてみると、その偉大さがよく分かる。決して偉ぶることなく、自然体である。多くの現役ジョッキーがお手本として岡部さんの名前を挙げる理由がよく分かったような気がする。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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