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特別表彰馬タガミホマレはアラブの星

  • 2010年02月06日(土) 00時00分
 4日、「NARグランプリ2009」の表彰式・祝賀パーティーが行われました。今年から騎手・調教師部門の表彰システムが変更され、去年までに比べると受賞者の数が倍増。地方競馬を代表する方々が大勢集まったおかげで、表彰式もそのあとの祝賀パーティーも、とても賑やかなものになりました。

 それに加えて、年度代表馬ラブミーチャンのオーナーはおなじみのDr.コパさん。いつも明るいコパさんが来場されたこともあって、会場は例年以上に華やかでした。今年も私は司会を務めさせていただきましたが、とにかく楽しかったですね。

 表彰式では、多くの受賞者の方々に喜びの声をうかがいました。その中で印象に残ったのは、最優秀勝利回数調教師賞を受賞した角田輝也調教師と最優秀勝率調教師賞を獲得した川西毅調教師(ともに名古屋)の言葉。角田調教師は自身の持つ日本記録を塗り替える239勝を挙げ、川西調教師は34.8%という極めて高い勝率をマークしての受賞でした。どちらも、これを上回るのは並大抵のことではない、素晴らしい数字だと思います。それにもかかわらず、二人とも口を揃えて「負けたレースのことが頭に残っている。もっとうまくやれば勝てたレースがあった。まだまだ努力していきたい」ということをおっしゃっていたんです。

 年間に239勝も挙げて、3割3分を超える勝率をマークして、それでもなお「もっと努力してもっと勝ちたい、もっと勝率を上げたい」と、さらなる高みを目指す。凄みさえ感じさせるプロ意識です。「やっぱりとてつもない数字を残す人たちは違うなぁ」とあらためて思い知らされました。

 ほかにも、「スゴイなぁ」と思ったことがあります。それは、今回、特別表彰馬に選ばれたタガミホマレの実績。同馬は、60年代に兵庫、春木(大阪=廃止)、南関東で大活躍し、種牡馬となってからも数多くの優秀な産駒を輩出した、日本アラブ競馬の“大黒柱”とも言うべき名馬です。去年秋に日本のアラブ系競走が幕を閉じたのを機に、同馬の功績に対して感謝の意を表そうと、今回の表彰になりました。

 で、この馬のどこが「スゴイ」のか。「アラブのことならこの人に聞かなきゃ」ということで、4日朝、兵庫の大御所・吉田勝彦アナウンサーにあらためてお話をうかがいました。吉田サンは、春木をはじめ、園田、姫路の各競馬場で長年にわたって実況を続けてきた方。タガミホマレのことを語ってもらうのには“うってつけ”の人物です。

 もちろん、吉田サンから同馬の思い出話をうかがうのはこれが初めてというわけではありません。私のタガミホマレに関する知識は、吉田サンからいただいたもの、と言ってもいいでしょう。なので今回も、私の期待どおり、まるで昨日のことのように、同馬について語ってくれました。いわく、「55年に及ぶ私の実況人生の中で、最も忘れがたい馬」とのこと。「とにかくその成績が抜群でした。73戦41勝2着19回。6着以下になった、いわゆる掲示板を外したのが1回しかなかったんです」。

 「そして何より、斤量を背負って強かったですね。最高で72kgを背負いましたが、そのときは2着。でも71kgで重賞を勝ちました。68kgを背負ったタガミホマレが52kgの馬に2馬身半の差をつけて勝ったこともあったんです。その差16kgで2馬身半ですよ」。

 馬の数やレベルが今とはまるで違う時代だったとはいえ、なんとも「スゴイ」と思いませんか?ところがこの馬、斤量に強かっただけじゃないんです。

 「昭和41年(66年)、大井のワード賞に出走したときには、当時の2000mのレコード、2分06秒6で優勝しました」。去年の帝王賞(不良)が2分03秒6、東京大賞典(良)が2分05秒9。40年以上も前にアラブの馬がそんなタイムをマークしたなんて。これも「スゴイ」数字です。吉田サンが「最も忘れがたい馬」とおっしゃるのもうなずけますね。

 ここまでは吉田サンのお話を元に、タガミホマレの現役時代について書きました。種牡馬になってからの実績は、日本軽種馬協会のデータベース「JBIS−search」で調べたものをご紹介します。

 同馬は、68年に種牡馬となりましたが、その初年度産駒から次々に重賞ウイナーが誕生。評判が評判を呼んだようで、72年には種付け頭数が270頭に達しました。翌73年は231頭(うち1頭はサラブレッド)、74年は237頭、17歳になった79年にも207頭に種付けしています。これも「スゴイ」でしょう?あのサンデーサイレンスでさえ、種付け頭数が200頭を超えたのは01年だけ(223頭)ですから。

 これだけの数字を見れば、タガミホマレを抜きにして日本のアラブ競馬は語れない、ということがお分かりいただけると思います。同馬が走っていたのは今から40年以上前。この世を去ったのは16年も前(32歳の大往生)のこと。これまで、その存在を知らなかったファンの方も多いはずです。今回の表彰は、そういう馬にスポットライトを当てた形になりました。私も、この表彰がなければ、タガミホマレのことをコラムに書く機会を逃していたかもかもしれません。

 いろんな「スゴイ」に出会えた今年のNARグランプリ。書きたいことはまだまだあるのですが、今回はこのへんにしておきます。なお、受賞馬の関係者と受賞者のみなさんのコメントは、「地方競馬ニュース」をご覧ください(戸崎圭太騎手の写真に写っているマイクを持つ手は私の手です)。では、また来週!

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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