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凱旋門賞前売りオッズに大きなインパクト

  • 2010年06月08日(火) 23時50分
 この週末に英国のエプソム競馬場で行われた2つのレースが、秋の総決算である凱旋門賞(10月3日、ロンシャン)へ向けた前売りオッズに、大きなインパクトをもたらした。

 まずは6月4日(金曜日)に行なわれた、古馬によるG1コロネーションC(12F10Y)。前年の愛ダービー馬や、前年の凱旋門賞2・3着馬に加え、レベルの高い牝馬勢から前年のオークス馬とオークス3着馬が参戦するという、ゴージャスな顔触れとなった中、1番人気に推されたフェイムアンドグローリー(牡4、父モンジュー)が、期待に違わぬ鮮やかなレース振りで快勝。この路線における古馬の代表格としての地位を不動のものとし、この時点で凱旋門賞前売り1番人気の座に躍り出た。

 愛ダービーでは強い競馬を見せたものの、英ダービーと愛チャンピオンSではシーザスターズに歯が立たず、そのショックからか凱旋門賞とチャンピオンSではいずれも着外に終わり、不本意な形で3歳シーズンを終えたフェイムアンドグローリー。今季初戦の準重賞アレッジドSで、弱敵相手に3着となった際には、落ちるところまで落ちたこの馬の評価だったが、その後は3連勝。自身2度目のG1制覇となった5月23日のタタソールズGC(カラ競馬場、10F110Y)は、G1とは思えぬほど相手が軽く、楽勝したとはいえ評価の急上昇には繋がらなかったが、コロネーションCにおけるレース振りは、まさしく超一流馬のものであった。

 フェイムアンドグローリーのラビット役として出走したディキシーミュージックが作ったペースは、レース序盤こそ緩やかだったが、坂の上りにかかると一気にスピードアップ。結果的にトラックレコードに1.1秒差に迫る好時計での決着となる、ハイペースとなった。その流れを2番手グループで追走し、直線入り口で早くもラビットを捕えて先頭に立つという、極めて積極的な競馬っぷりでフェイムアンドグローリーが快勝したのである。

 ペースが速かったにも関わらず、早めに自力勝負に出た理由は、「スタミナ勝負に持ち込みたかったから(J・ムルタ騎手談)」。確かに、ヨーイドンの切れ味勝負になると、結果的に2着となった牝馬のサリスカの方が上で、そういう意味では、この馬の適性を知り尽くした陣営の作戦通りに事が進んだ末の圧勝だったと言えよう。

 一方、自身の好みよりは随分と固い馬場になったにも関わらず、昨年の凱旋門賞で2・3着したユムゼイン、カヴァルリーマンといった牡馬勢に後塵を浴びせて2着となったサリスカ(牝4、父ピヴォタル)のレース振りも悪くなかった。秋のパリは馬場が渋ることが多く、道悪の愛オークスを馬なりで圧勝しているこの馬に出番となることも、おおいにありそうである。

 かくして、凱旋門賞1番人気となったフェイムアンドグローリーだったが、実は、その座にあったのはわずか24時間だった。翌5日に、同じエプソムで行なわれた英ダービーで、フェイムアンドグローリーを更に上回る強烈なパフォーマンスをする馬が出現したからだ。

 英国ダービーを制したのは、2週間前にこのコラムで展望を行なった際には、5、6番人気につけているとご紹介したワークフォース(牡3、父キングズベスト)だった。

 その後、1番人気に推されていたセントニコラスアベイ(牡3、父モンジュー)が、体調不十分で回避。最重要プレップと言われるダンテSの勝ち馬ケイプブランコ(牡3、父ガリレオ)も、距離適性を鑑みてフランスのダービーに廻ったため、当日のワークフォースは3番人気に押し出されていた。

 すなわち、発走前は「多少手薄な顔触れ」で「近年にない混戦」と言われた今年の英ダービーだったが、そんな下馬評を一気に覆したのが、ワークフォースのパフォーマンスだった。

 まず、2着馬に付けた着差が7馬身というのは、81年のシャーガー(10馬身)、25年のマンナ(8馬身)に次いで、79年のトロイ、85年のスリップアンカーと並ぶ、ダービー史上3番目の大差だった。

 更に勝ち時計が、前日のコロネーションCを2秒以上上回り、95年のダービーでラムタラが樹立した記録をも1秒近く更新するトラックレコードとなる2分31秒33!!。いかにラビット役のアットファーストサイトが忠実に役割を果たしたとはいえ、更に、仮柵がとられた最内を効率良く廻って来たとはいえ、驚異と表現して差し支えのない走破タイムが計時されたのである。

 しかもワークフォースは、ここがデビュー3戦目の競馬だったのだ。昨年9月にグッドウッドのメイドン(7F)を6馬身差でデビュー勝ち。2歳時はこの1戦だけで終わり、今季初戦が、ケイプブランコの2着に敗れた5月13日のG2ダンテS(ヨーク競馬場、10F88Y)だった。すなわち、まだまだ上積みがありそうなのがワークフォースで、今後が極めて楽しみな逸材であることは間違いないと言えよう。

 ただし、前述したように、今年のダービーは決してハイレベルの顔触れが揃っていたわけではなく、結果的に2着になったのは、無謀なペースで飛ばしたラビット役のアットファーストサイト(牡3、父ガリレオ)だった。

 勝ち馬以外は、ラビットも交わせないほどの低メンバーだったのか?!。それとも、アットファーストサイトも極めてレベルの高い馬で、これを千切ったワークフォースも額面通りの怪物なのか?!。

 レース翌日の6日(日曜日)に英国の公式ハンディキャッパーが表明した見解は、後者だった。発表されたワークフォースの暫定レイティングは、128。昨年のダービー終了時点でのシーザスターズを4ポンド上回るという、高評価を下したのである。

 リリースによると、公式ハンディキャッパーたちがキーホースに指名したのが、3着に入ったリワイルディング(牡3、父タイガーヒル)で、この馬のレイティングが115。2着のアットファーストサイトが116で、12F戦では1馬身を1.5ポンドと換算するのが通例だから、7馬身差をつけたワークフォースは126から127になるのだが、楽勝であったため実質的には「8馬身差」という見解にのっとり、2着馬に12ポンド上乗せの128になったという。

 各ブックメーカーの反応も、公式ハンディキャッパーと同様で、凱旋門賞へ向けた前売りオッズでも、フェイムアンドグローリーの天下はたった1日で終わり、ワークフォースが本命に座に就くことになった。

 大手ブックメーカーの6月7日現在のオッズでは、ワークフォースが4倍から5倍であるのに対し、フェイムアンドグローリーが6倍から7倍となっている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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