レーヴディソールがまさかの回避で、一気に混戦となった今年の桜花賞。そこで光彩を放ったのがベテランの技。マルセリーナを桜の女王に導いた名手・安藤勝己を直撃します。
◆他のディープ産駒とは違う
東 :マルセリーナでの桜花賞(11/4/10、阪神芝1600m)優勝、おめでとうございました。本命視されていた同じ松田博資厩舎のレーヴディソールが骨折してしまって、一気に混戦ムードになりましたが、そこを制した喜びはいかがでしたか?
安藤 :正直言ってね、うれしいというよりホッとしたところが大きかったですね。厩舎では、レーヴが桜花賞やオークスでどういう結果を出すのか、イメージ出来ていたと思うんです。それを考えると、何とか勝ってくれればなと。
東 :レーヴの分も、松田先生のマルセリーナに寄せる期待は大きくなっていたんでしょうか。
安藤 :そうだと思う。先生はマルセリーナのことも「走る」って、最初から力が入っていましたよ。ただ、レーヴがすごい勝ち方をするからね。
東 :そうですよね。
安藤 :先生の「マルセリーナもすごく強くなる」という思いを知っていたから、その期待に応えたいなというのもあったし。状態も良いと聞いていたので、良い競馬はしてくれるんだろうというのもありました。だから、そういう意味でホッとしたんだよね。
東 :そこできっちりと勝利を収めるというのが、安藤騎手のベテランの貫禄だなと思いました。
安藤 :いえいえ(笑)。
東 :安勝騎手が感じる今年の桜花賞の勝利ポイントというのはどの辺りだったんでしょうか? 馬群がごちゃついて、難しいレースだったということでしたが?
安藤 :そうですね。枠が枠だったし(4枠8番)、できればもうちょっと前に行きたかったんだけど、ちょっと出して行ったら狭くなってしまって。そのままずっといたら、かえってごちゃごちゃのところに入っちゃうなというのがあったので、これは下げた方がいいなと。
東 :それで、後ろからの競馬に切り替えた。
安藤 :やっぱりまだ若い女の子だから、ごちゃごちゃした位置にいさせないようにと思っていました。下げた時には「こんな位置になっちゃったな」と思ったんですが、その時点で「これは直線勝負だな」って、腹を括りました。あとはやっぱり、運もありましたよね。
東 :直線でパッと前が空きましたもんね。そこでしっかりと、空いたところに突っ込んできました。
安藤 :それはやっぱり、馬がサッと動けたからね。それまではモタモタって、追って追ってやっと動くような感じの競馬だったので、そういうタイプの馬なのかなと思っていたんです。でも、あれだけ切れる脚があるということが分かったのは、また1つ収穫がありましたね。
東 :安藤騎手もびっくりな一面を見たんですか?
安藤 :そう。それに、ここまで強いとは正直思っていなかったというかね。それなりの力はあって、一戦毎に力も付けているけど、そこまで強いという自信をまだ持てなくて。それが終わってみたら、本当に強いなと思ってね。それだけ成長していたということでしょう。
東 :そうすると、新馬戦(10/12/11、阪神芝1600m)の頃はまだ半信半疑というか…?
安藤 :そうです。僕が初めて見たのは競馬に乗る日だったんだけど、まだモサッとした馬で、子どもっぽくて。それに、毛もボサボサでね(笑)。正直、走るっていうイメージはまだ感じ取れなかった。
東 :そうだったんですか。
安藤 :先生からは「すごく走ると思っているから」とは聞いたんだけど、同時に、やっぱりまだまだ馬はしっかり出来ていないというのも聞いていましたからね。
東 :スタートもゆったり、という感じでした。
安藤 :そうですね。自分から行くような感じでもなかったしね。ただ、思ったより追走は楽に行けるなと思いました。ペースが遅い分、上がりは早かったけど、それでも追うごとに伸びて、最終的には差し切ったからね。これは使いつつ良くなってくるだろうなと感じましたよ。
東 :新馬戦は素質の高さで勝ち切って、この後はまだまだ伸びていきそうだなと。
安藤 :そうそう。何も悪い癖はないし、女の子の割には、おっとりしている。まだ何も知らないような感じだったので、これで競馬を覚えてきたらもっと強くなりそうだなって。それと、これまで乗せてもらってきたディープインパクトの仔と、ちょっとタイプが違うなとも思ったんです。
東 :そうなんですか?
安藤 :ディープの仔って、最初からセンスはあるんだけど、ピュッと反応し過ぎる部分もあって。ちょっと軽すぎるというか。
東 :はい。
安藤 :でも、マルセリーナはそういう感じがしないんです。すぐに反応はしないけど、追えば追うだけ伸びてくる。「強くなるんじゃないかな」って思ったね。ディープ産駒でも、僕はこっちの方が好きだなって。