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セントジェームスパレスS展望

  • 2011年06月08日(水) 12時00分
 ロイヤルアスコット初日の6月14日に行われる、3歳牡馬限定のマイルG1セントジェームスパレスSは、日程的に欧州各国の2000ギニー上位組みが顔を揃えるレースとなっている。そのレースに今年、日本で2000ギニーの位置付けにあるNHKマイルC優勝馬グランプリボス(牡3、父サクラバクシンオー)が挑む。

 ロイヤルアスコットの3歳戦に日本調教馬が参戦するのは、これが初めてのことだが、3歳のトップマイラーがNHKマイルC後に目標とするレースとして、セントジェームスパレスSほど理にかなった競走条件のレースはなく、普段から海外のレースを視野に入れている矢作芳人調教師としては、至極当たり前の挑戦であるはずだ。今年、セントジェームスパレスSの登録締め切りは4月19日で、すなわちNHKマイルCの前だったわけだが、先を見越してしっかりと登録を行っていた陣営の周到な準備に、まずは敬意を表したい。

 ましてや、NHKマイルCで2.1/4馬身後方の3着に退けたリアルインパクトが、安田記念で古馬勢を一蹴して優勝。意を一層強くしての参戦となった。

 グランプリボスがどれだけやれるかによって、今後の行く末も変わってくるかとは思うが、3歳のトップマイラーたちが日本国内の一連の競馬の後に、牡馬であればセントジェームスパレスS、牝馬であればコロネーションSという、ロイヤルアスコットの3歳戦を目標とするというのが、ある種の定番になっておかしくはなく、今後は3歳のトップマイラーであれば、取りあえずこの両レースのいずれかに、登録だけはしておくことが必要になるかもしれない。

 5月27日(金)にニューマーケットに到着し、クライヴ・ブリテン厩舎の一角を拠点としているグランプリボス。矢作芳人調教師によると、輸送は順調にいったそうで、馬体減もほとんどなかったとのこと。環境の良さに馬がのんびりしてしまうことや、飼食いが旺盛で太くなる心配があることから、バリバリと負荷の強い調教を課しているというから、頼もしい限りである。

 セントジェームスパレスSは、三角形をしたアスコット競馬場の周回コースの、スタンドから見て最も遠い、スウィンリーボトムと呼ばれる地点がスタートとなる。ここからストレートマイルに合流するまでの5F近くが上りで、ストレートマイルに合流してもゴール前100mが平坦な以外は上りという、タフなコースである。パワフルな走法で、普段の調教から坂は苦にしないところから、アスコットの馬場もこなせると見込んでの遠征だが、日本にはない馬場の起伏に馬が対応できれば、現在の日本のトップホースの水準からして、いい競馬をしてくれるものと確信している。

 もっとも、この水準のレースになれば当然のことだが、相手関係も相当にタフである。

 すでに各所で報道されているように、最大の敵は言うまでも無く、モンスター・オン・ギャロップの異名をとる6戦6勝のフランケル(牡3、父ガリレオ)だ。2000ギニーを6馬身差で制した段階で、レイティング130を獲得し、豪州のスーパーヒロイン・ブラックキャヴィア(牝4、父ベルエスプリ)と並んでワールドランキングの首位に立つ世界最強馬である。しかもアスコットのオールドマイルは、2歳9月にG2ロイヤルロッジSを10馬身差で制している舞台だ。スピードの絶対値という点で、この馬にマックスの能力を発揮されると、グランプリボスでなくとも太刀打ちは困難である。

 ただし、あくまでも「マックスの能力を発揮されると」である。前々走まで折角抑える競馬を教え込んできたのに、2000ギニーでは馬の行く気に任せた競馬をしたことで、フランケルが鞍上の制御が利かない馬になっている可能性は少なからずあると筆者は見ている。2000ギニーを上回るラップで暴走したら、いかにフランケルといえども、ゴール前では脚が止まる。そうなると、追い込むグランプリボスの出番である。

 過去10年の勝ち馬のうち6頭は、英国、仏国、愛国のいずれかの2000ギニーを制した馬だ。すなわちデータ的には、フランケルの次に注視すべきは仏2000ギニー馬ティンホース(牡3、父サーキー)と愛2000ギニー馬ロデリックオコナー(牡3、父ガリレオ)なのだが、実はこの2頭はいずれも6月5日(日)にシャンティーで行われた仏ダービーを走っている。現地時間6月8日(水)正午、日本時間同日夜8時に設けられている登録ステージを過ぎないとはっきりしたことは言えないが、常識的にはほぼ連闘となるセントジェームスパレスSには使ってこないと見るべきだろう。

 彼らが不在なら、フランケルに次ぐ実績を誇るのが、英2000ギニー、愛2000ギニーがいずれも2着だったドバウィープリンス(牡3、父ドバウィー)だ。

 英2000ギニートライアルのG3グリーナムSでフランケルの2着になった後、独2000ギニーに廻って7馬身差の圧勝を演じたエクセレブレーション(牡3、父エクシードアンドエクセル)や、休み明けだった仏2000ギニーで逃げて5着だったウートンバセット(牡3、父イフラージ)らも、ツボに嵌れば突き抜ける破壊力がある。仏2000ギニーで後方から4着まで追い込んだテンプオウテンプ(牡3、父インヴィンシブルスピリット)を含めて、侮れない存在と言えそうだ。

 セントジェームスパレスSの模様は、グリーンチャンネルで衛星生中継される予定ですので、ぜひ御覧ください。

▼ 合田直弘氏の最新情報は、合田直弘Official Blog『International Racegoers' Club』でも展開中です。是非、ご覧ください。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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