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笹田和秀調教師インタビュー中編

  • 2011年06月15日(水) 12時00分
桜花賞出走は叶わなかったものの、条件戦、オープン戦、そしてGIと、3連勝で一気に頂点へ登りつめたエリンコート。その勝利には、笹田調教師が「GI制覇のポイント」と見極めた瞬間がありました。

◆なつかせるのは得意

:エリンコートは、500万下(11/3/27、阪神芝1800m)、忘れな草賞(11/4/10、阪神芝2000m)、オークス(11/5/22、東京芝2400m)と、一気に3連勝したわけですが、その前の休養が大きかったんですね。精神的にも落ち着いてきたという。

笹田 :そうですね。筋肉も付き切っていなかったので、使って休ませてという形が馬の成長を徐々にでも促していったのかなと思っています。その頃から、距離が長くなってもちゃんと我慢が利くようにもなったんです。

:そこからは1800m、2000m、2400mと、どんどん距離を伸ばしていますもんね。もともとが、走りたい気持ちが先に行ってしまうということでしたが。

笹田 :少しムキになるタイプですからね。そこをうまくセーブしておけばと。でもやっぱり、こういう走る馬というのは、そういうきつい気性を持っていますよね。

:走る馬だからこそ、そういう面もあるんですね。それを競馬に行って活かせるように。

笹田 :そうですね。1400mくらいを使っている時には、やっぱり少し行きたがったりしていましたけど、学習能力が高いから、自分でそこを我慢するように勉強してくれたみたいですよ。

:そういう成長過程を見ながら、GIという大目標に向かっていったと思いますが、今回のGI制覇で、ポイントとなったことは何ですか?

笹田 :本当は桜花賞を目標にしたかったんです。血統的にもそう思っていました。でも、桜花賞にはまだちょっと間に合わないかなというのと、抽選で除外になったのもあって、その時点で「オークスに出そう」という考えを持ったんです。

:はい。

笹田 :その考えを持った時に、「この馬は、今の段階でこれくらいの成長度合いだったら、オークスに間に合う」っていう、そういう見方が出来たんですよね。

:目標をオークスに定めた時に。

笹田 :そう。だからその後1800m、の500万下を使いました。そうでなかったら、適距離の1600mを使っていたと思います。そこをあえて1800m、2000mと使って持っていけたのが、オークス制覇の見極めだったと思います。

:そこが先生の勝負のポイントだったんですね。その期待に応えたエリンコートですが、今は放牧に?

笹田 :そうです。レース翌週の木曜日に山元トレセンへ放牧に出しました。今後は、社台Fから函館に入れて、クイーンSをにらみながら、ローズS、秋華賞というローテーションを考えています。ローズS、秋華賞で2戦するか、クイーンSを挟んで3戦するか、馬の状態を見ながら決めます。

:この夏から秋にまたがんばって欲しいですよね。笹田厩舎にとって初GI勝利ということで、この馬に対する思いも強くなったと思いますが?

笹田 :そうですね。まあでも、みんな平等に扱いますからね。この馬だけってすると、他の女の子がやきもちを焼くので、それはしないようにしています。

:女の世界はやきもちが大変(笑)。

笹田 :そうでしょう(笑)? ただ、これからは注目されますし、追われる立場になります。その辺のプレッシャーを人間が感じると馬も感じますからね。馬には普通に接してあげるようにとは思っています。

:ひと夏を越えて、成長した姿を見られるのが楽しみです。

笹田 :まだ完成していない馬ですからね、腰とか後ろ脚にもっと筋肉が付いてきて、もう出来てくると思いますよ。まあ、調教で気よく走りすぎるから、その辺をなだめるように注意が必要なんですけどね。

:牝馬の調教ということで、特別気をつけていることもあるんですか?

笹田 :牝馬には牝馬に合う調教というのがあるんです。まず、嫌な思いをさせないようにすることですね。苦しがらせないと言いますか。苦しい思い、嫌な思いをさせないようにすることです。

:オークスの雨のお話のようですね。でもやっぱり、調教となると「ここまでは仕上げたいな」というのもありますよね。その目標に達しない時はどうされるんですか?

笹田 :なるべく前の週に一番強い調教をしておいて、そこで足りなかったら翌週にちょっと味付けを濃くするとか。逆に前の週がハードだったら、次の週は味付けを薄くするとか。そうやって、馬の状態や気配、体を見てやっていきますね。

:1週1週じゃなくて、一貫して見ていくんですね。笹田先生と言ったら、エアグルーヴの印象から牝馬のイメージが強くて、厩舎最初のGI勝利が牝馬GIというのもすごく納得してしまうのですが、やっぱり牝馬は相性が良いなと感じますか?

笹田 :まあ、そうですね。相性が良いというか、話せるんです。馬と。なつかせるのも上手なんですよ。例えばエアグルーヴだったら、ニックネームで僕は「ギャルちゃん」と呼んでいたんですけど。

:なんで「ギャルちゃん」なんですか!?

笹田 :なんか“キャンキャン”としていて、その頃「ギャル」という言葉も流行っていたでしょう。で、グループ・サウンズのグルービーですから、その感じで、「ギャルちゃん」って。そうやって呼ぶと、もうペロペロなめてくれます。もうちょっと前のダイイチルビーは、お手をしてくれましたしね。

:お手をするんですか、馬が!?

笹田 :うん。それくらいなつかせられるんです。馬は。人間だと…そうもできないんですけどね(笑)。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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