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田中剛調教師インタビュー中編

  • 2011年06月29日(水) 12時00分
とんとん拍子で障害界の階段を登っていくマジェスティバイオ。このまま中山グランドジャンプで一気にGI制覇か、と思いきや、田中剛調教師はあえて慎重。そこには、障害の名手だから知る、大障害の難しさがありました。

◆大障害は別次元

赤見 :マジェスティバイオは今年の4月に障害入りして、4戦目で重賞勝利。とんとん拍子で成長していきましたが、普段はどんな仔なんですか?

田中 :すごく素直で、すごく頭が良い馬なんです。障害で道悪を走ったら、それで滑るって分かって、次のレースでは自分で探って飛んでいたんです。障害を4つ5つ飛ぶまでは本当に探りながら飛んでいて、大丈夫だと分かってからは慣れて上手く飛んでいました。そこからは脚も違っていましたね。

赤見 :すごい。障害に入ってからの順調さは、そういう頭の良さもあってなんですね。前走で初めて重賞を勝って、今後はどういう予定ですか?

田中 :この間の重賞がさっき言った大きい障害でしたら、中山のGI(中山グランドジャンプ)に行きたかったんですけど、まだ大きい障害を飛んでいないので、新潟ジャンプS辺りのオープンで揉まれて、徐々に大きい障害に慣らしながら、胸を張って大障害に行きたいと思っています。

赤見 :なるほど。まだ若い馬ですしね。でも、こうやって勢いもあって重賞まで勝つと、“次はGI”って行ってしまいそうなイメージもあります。

田中 :そう。行っちゃうんですよね。でも、そこで待てるか待てないかがポイントだと思うんです。行く時期が来れば行かないといけないですけど、まだその時期ではないので。今回勝ったのも出来過ぎたところがあるので、ここで少し慎重に行きたいですね。

赤見 :ここは慎重に。

田中 :はい。現役の時に、オープン馬になったからって大障害に出て、ひっくり返ったりもしてきました。そういう馬の痛みとかも分かってきましたので。

赤見 :やっぱり大障害は違うものですか?

田中 :違いますね。大竹柵は今はだいぶ掻き分けられるようになったんですけど、それでも彼にはインパクトがありますし、昔の大竹柵はもっと厳しい障害でした。いきなり掻き分けられるような障害でなかったんですね。

赤見 :厳しい障害。

田中 :竹が5列ぐらい埋まっているんですけど、その隙間にも竹を横に詰め込んで、掻き分けられないようにしてあったんです。しかも竹が全方向に、噴火のようになびいていて。今はそれを着地の方になびかせたものになっているんですけどね。

赤見 :そうすると、今の大障害で大きい障害は赤レンガですか?

田中 :そうですね。今は大竹柵より赤レンガです。それでも、海外の障害から比べたら、まだまだ全然。高さはそんなに変わらないんですけど、下も深いですし、障害自体の掻き分けて行ける部分が上の20cmくらいだけなんです。

赤見 :そうすると、掻き分けて行くような馬だとダメなんですか?

田中 :そのバランスですかね。掻き分けて行く障害もあるんですよ。障害にはハードル(置障害競走)とスティープルチェイス(固定障害競走)という2種類があって、ハードルは1mくらいの高さしかなくて、ぶつけてもいいような障害なんです。そこで上手く脚を上げる馬でしたら、スティープルチェイスに移行して、グランドナショナルとかそういう競走に入って行くんです。

赤見 :日本の障害は、大きさの違いしかないということですか?

田中 :そうですね。大きさしかなくて、ハードルとスティープルチェイスとがミックスされたような障害です。

赤見 :大障害だと、バンケットもすごく深いですよね。見ていると一瞬消えて、そこからまた上がってくる感じです。

田中 :そうですね。その上がったところの両脇にファンの方がいますので、声援が聞こえるんです。で、何かアクシデントあったときに、ファンの方がバーッとざわめくので、「あ、何かあったんだな」って分かるんです。

赤見 :えっ、ファンの方の声がサインに!? でも、そうか、飛ぶ前だと飛んだ馬が見えないんですか?

田中 :見えないです。だから、もし自分の馬がひっくり返ったりしたときは、「ウワーッ」という声で、後ろの騎手は「前が落ちたんだな」というのが分かりますね。

赤見 :なるほど。でも、状況が目で確認できない状態で飛ぶって、すごいですね。

田中 :まあ、飛びの下手な馬とかは予め新聞を見ながら自分で見当を付けて、レースでもその馬はどこにいるのかを見ながら乗っていますし、前を行っている馬が内側を飛んだか外側を飛んだかというのも見ていますので。

前に行っている馬が2、3頭いたりして、内側に集中していて、それでファンの方の声が聞こえたら「切り替えて外に行こうかな」とか、先行集団にいて後ろの方で「ワーッ」となっていたら、「あ、後ろで落ちたんだな。そうすると、空馬が来るぞ」って考えたり。

赤見 :いろいろなことが頭の中を駆け巡るんですね。

田中 :もう、いろいろなアンテナを張っていますね。漠然と乗っていたらダメですので。

赤見 :そういう意味では、平地よりも考えることが多いですか?

田中 :ああ、多いです、多いです。「何番手に付けて、射程圏内にいなきゃいけない」って考えながら、障害も飛ばしていかないといけないですし。レース初めの余力のあるうちは引っ張ったままでも上手く飛んでくれるんですけど、最後の方だと追いながら飛ばさなきゃいけないということもありますからね。

赤見 :障害の難しさを改めて感じました。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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