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川須栄彦騎手インタビュー前編

  • 2011年08月16日(火) 12時00分
現在53勝を挙げ、関西リーディング4位(8月15日現在)。今年大ブレイクした川須栄彦騎手がいよいよ登場です。デビュー2年目のこの活躍ぶり、その陰にはデビュー1年目での所属厩舎からの巣立ちという、大きな試練がありました。

◆何度も同じ失敗を…

:今年大活躍の川須君、騎手を目指したきっかけが「プロのスポーツ選手になりたかったから」というのは珍しいですよね。だいたい皆さん「関係者が近くにいた」とか「馬が好きだったから」というのが多いですもんね。出身は福岡ですよね?

川須 :はい。福岡の糸島というところです。小倉競馬場からは1時間ちょっと、市内の福岡ドームへは20分くらいのところです。

:野球場が近いんですか。じゃあ、野球はよく見に行って?

川須 :見に行っていましたね。小学校中学校で野球をしていたんです。それで最初はプロ野球選手になりたかったんですが、体型から難しいかなと。競艇や競馬ならこういう体型を活かせると聞いて、中学校の夏に部活が終わって受験モードに入る時に、父親から「競馬学校の試験があるけど、どうする?」って言われて、「受けてみようかな」って受けたのがきっかけです。

:未知の世界だけど、やってみようと決めたんですね。乗馬の経験はなかったということですが、それでも見事に合格して。すごいですよね。

川須 :それでも、やっぱり技術の差があるから、合格した後に競馬学校から乗馬クラブを紹介してもらったんです。入学するまで毎日通いなさいって。それで、片道1時間半かけて、電車とバスと自転車を乗り継いで通っていました。

:毎日通ったんですか?

川須 :月曜日の定休日以外は毎日通いました。中学校が終わったらすぐに向かって、毎日ひと鞍乗せてもらって。馬に乗ったことがなかったのはもちろんですけど、触ったこともなかったので、まずは馬に親しむところからでした。入学するまでの3か月間みっちり乗ったので、入学した時にはそんなに遅れは感じなかったですし、最初の試験では9人中3位でした。

:すごい! 3か月間がんばったんですね。初めて馬に触った感触っていうのは覚えていますか?

川須 :はい。正直もう…大きいですし、特有のにおいもありますし、慣れないことだらけでしたよね。もともと馬に限らず、動物がすごく好きという方ではなかったんです。小さい時は、犬ですら怖いくらいでした。

:犬が怖いのに、今馬に乗っているんですね(笑)。

川須 :はい(笑)。まあ、犬はもう大丈夫なんですけどね。でもやっぱり、この職業は馬のことを考えられないといけないなっていうのは、つくづく思いますよね。

:今年でデビュー2年目ですが、今の活躍ぶりがすごいですよね。今年の半分が過ぎましたが、もう既に去年の倍以上勝っています(8月15日現在53勝)。

川須 :そうですね。すごくたくさん勝たせてもらったなっていうのはありますね。でも、今だから余計に感じるんですけど、勝っているからチャンスをいただく機会が増えて、チャンスが増えると騎手は負ける方が多いので、悔しい思いをする回数も増えたんです。だからもっと上手くならないとなっていう気持ちは強くなりますね。

:チャンスが増えたからこそ。

川須 :はい。技術に伴って成績が上がっていったら納得できるんでしょうけど、今は技術以上に勝たせてもらっているので。ただ、これだけ勝たせてもらったので、それはそれでしっかり自信にしていいなって、自分では思っています。

:そうですよね。これは大きな自信になりますよね。今年は、年明けの1月からポポポンっと勝ちましたよね。1月だけで7勝とスタートから好調でしたが?

川須 :そうですね。特に何を変えたということもないんですが、僕、1年目の終りにフリーになったんです。だから、いろいろな思いでスタートした年でした。1年目でフリーになるというのはかなり早いので、最初は雑音もあって。

:はい。

川須 :だけど、フリーになったからにはそれは気にしていられない、結果を出すしかないなと思いました。とにかく結果を出すこと、結果を出さないと終わっていく厳しい世界なので。もちろん最初は不安もあったんですけど、年明けはみんな同じ0からのスタート。だから、最初だけでもリーディングの上位にいられたら、チャンスが回ってくると思ったんです。

:そうですよね。じゃあ、フリーになった当初は、いろんな厩舎に足しげく通ったり?

川須 :そうですね。まずはいろんな厩舎の攻め馬を手伝うことからでした。今は松元茂樹厩舎と加用正厩舎を毎日手伝わせてもらっています。今までは厩舎に所属していたので、最低限自厩舎の攻め馬をすればよかったんですけど、所属していた(本田優)先生に「もう攻め馬は厩舎内でやるから、1回ひとりでやってみろ」って言われて。

:先生から「他のところでがんばってみろ」という感じだったんですか?

川須 :そうです。「このまま置いておいてもお前のためにならない。1回勉強しなさい」って。言ったら、いろんな甘えがあって。「お前は所属騎手なんだから、もっと厩舎のスタッフや馬のことを大切にしなさい」ってずっと言われていたんです。

:はい。

川須 :だけど、デビューしたばかりでとにかく競馬のことしか頭になかった。何度言われても同じことを繰り返して、失敗して、「だったら1回ひとりでやってみろ」って。

:そうだったんですか。

川須 :今フリーになって、今まで当たり前だったことがなくなって、初めて気付いたこともあります。調教ひとつでも手伝うところがあることはすごくありがたいことで、手伝わせてもらっているのが当たり前って思っちゃいけないですし、競馬でもたくさん勝たせてもらっていることに感謝しないといけないです。

:感謝の気持ちを持って乗ってきて、今結果が出てきているんですね。

川須 :そうですね。それとやっぱり、今があるのはデビュー1年目の一番下手くそな時から乗せてくださっている方々のおかげだと思っています。そういう方々への感謝は忘れてはいけないと思っています。



【次週は】
デビュー1年目での所属厩舎からの巣立ちという、試練を経験した川須栄彦騎手。それまで以上に、周りへの感謝の気持ちを強く抱くようになりました。それに伴い成績も着実に上向き、順調な騎手生活を歩んでいます。

次週は、絶好調の川須栄彦騎手が今描いている騎乗論、そして同期のライバル高倉稜騎手とのエピソードに迫ります。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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