この夏もどんどん勝ち鞍を伸ばし、関西リーディング4位(8月21日現在)の活躍。今週は、乗れている川須栄彦騎手の騎乗論に迫ります。若手離れした考え方に、東奈緒美さんも脱帽!?<8/15.16に掲載されたインタビューの続きです>
◆あこがれは内田博幸騎手
東 :今とても好調の川須君なんですけれども、騎乗について伺っていきたいと思います。レースに乗っていて、現段階での自分の騎乗論というのはありますか?
川須 :やっぱりスタートが大切だなと、今特に思いますね。一歩目でスッと出るのと、煽って遅れるの、ほんのちょっとの差かもしれないですけど、そのちょっとで後の流れが全然違うというのがあります。
東 :それは自分の気持ち的にですか?
川須 :気持ち的にもあるんでしょうけど、自分が狙った位置を取りに行くにしても、スッとスタートを出たら、その後が競馬の流れに乗りやすいですし。大概良い結果が出る時は、スッとスタートを決めて、ある程度自分の狙ったポジションを取り行けたときです。そこからは、勝負どころまでいかに馬のリズムを大切に乗るかだと思います。
東 :はい。
川須 :あとはケガと騎乗停止。こうやって良い流れで来ているので、そこでケガをしたり騎乗停止になってしまったら。まだ信頼を完璧に物にしているわけではないので、そういう事にも気を遣いますよね。
東 :ここまで結果を出していると、もう安心して乗れているんじゃないかなと思っていました。フリーになったことで、謙虚心とか感謝の心をずっと持つようになったんですね。そういうのは、持ち続けるのが難しい気持ちだと思います。
川須 :そうですよね。簡単なようで難しいと思います。どこかで「まあ、いいか」ってなっちゃうところがあると思うんですけど、騎手である以上、人から信頼されるようでいないと、と。
東 :確かに、技術も大事ですけど、この世界は皆が知り合いで、同じ技量だったら、やっぱり人柄が良い方が選ばれるというのはありますもんね。
川須 :はい。上の方にいる方は、もちろんみなさん技術はありますけど、技術以上に勝ち鞍の差って出ていると思います。厳しい世界なので、そういうところでも自分のためになるように考えていかないといけないなと思います。
東 :そういう努力もあって、騎乗を依頼される厩舎の幅も広がってきているかなと思うんですが?
川須 :そうですね。ただ、今はリーディングの上の方にいることで、僕のことをあまり知らなくても、頼んでくださっている方もいると思います。そこでいかに、自分でチャンスを物にできるかだと。
東 :その結果で今後が変わってくるでしょうし。
川須 :はい。やっぱり初めて依頼されたところは特に、結果を出せたら次につながるでしょうし。どの馬でも、どれだけ人気している馬でも、同じような気持ちで僕は一生懸命乗りますけど、でもやっぱり、そういう期待に応えたいというのはありますよね。
東 :今、二十歳ですよね?
川須 :いや、19歳です。今年二十歳です。
東 :19歳ですか。本当に? サバ読んでない(笑)? っていうぐらい、競馬を見る目線が違いますね。騎手の先輩で憧れている方はいらっしゃいますか?
川須 :僕はデビュー前から、内田博幸さんにあこがれていたんです。体型が似ているので勉強になりますし、人間的にもものすごくいい方で。関東と関西なのでそこまで接点があるわけではないんですけど、京都に乗りに来られた時にお話をさせてもらったりして、もう本当にいい方ですし。やっぱり、関係者からの信頼が厚いですよね。
東 :そうですよね。
川須 :また、競馬で追い比べになったら「絶対に負けない」という気迫が伝わってくるというか。僕もそういう、気迫がファンの方に伝わるような騎手になりたいというのがあります。追える騎手になりたいですね。
東 :追える騎手に。
川須 :はい。やっぱり競馬で一番注目されるのって、最後の直線で追っているところなんですよね。本当はそこまでが一番大切なんですけど、関係者やファンの方が一番見ているのは最後の追い込みです。そこで「誰だ、あの追いこんで来たの?」「川須か、あいつ追えるな」って言ってもらえるような、そういう騎手になりたいです。
東 :確かに、レースを見ていて、がんばって追ってくれての5着と緩やかに来ての5着だったら、印象が全然違いますね。
川須 :絶対そうだと思います。もちろん騎手にしか分からないこともありますけど、そうやってファンの方に納得してもらうのもプロの仕事ですし、そういうことを求められていると思いますので。
東 :やっぱり、本当に19歳? って(笑)。
川須 :19歳です(笑)。
東 :今年の6月、マーメイドS(11/06/19、阪神芝2000m、5着)でモーニングフェイスに騎乗しましたが、重賞初騎乗だったんですよね? 緊張しましたか?
川須 :いや、緊張はしなかったです。「重賞初騎乗」って新聞でも取り上げてもらっていたので、ちょっとでも見せ場を作りたいなという気持ちで乗りました。人気はなかったですけど(12番人気)、51キロの軽ハンデでしたし、勝ちに行くレースをしに行っての5着でした。
東 :狙って乗ったんですね。
川須 :そうですね。結果的に「こうすればもっと上があったのかな」とか、そういうのはあるんですけど、でも自分としては思い描いていたようなレースをしましたし、悔いは全く残らなかったです。また、(管理する)矢作芳人先生は、デビューの週にも乗せていただいたんです。それもあっての今回の重賞初騎乗というのもありました。
東 :矢作先生は、若手を力強く応援してくれる先生ですよね。このレース、高倉(稜)君もアースシンボル(3着)で騎乗していましたが、このコーナーの取材で伺ったら、直線に入ってターフビジョンを見たら川須君が前にいたから「負けたくない」という思いで追ったそうです。そういうライバル心はありましたか?
川須 :そうなんですか? いや、僕は自分のことで精一杯でしたから。あいつはいつも言うんです。「ターフビジョンを見たらお前が先頭だったから、必死で追った」って。でも正直、そんな余裕はないと思います。直線向いて必死で追っているのに、ターフビジョンを見て「あ、川須が1番だ」とは。
東 :確かに、0コンマ何秒の勝負ですもんね。そうすると、高倉君の方が川須君を意識しているみたいですね。