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田辺裕信騎手インタビュー前編

  • 2011年08月30日(火) 12時00分
乗れている騎手を特集してきた、2011年夏の「おじゃ馬します!」。ラストを飾るのは、美浦の田辺裕信騎手です。元々技術に定評のあった田辺騎手が、デビュー10年目の今年大ブレイク。その素顔は意外にも、飾らない自然体な若者でした。

◆なぜ4コーナーで前が空く?

赤見 :今年は騎手のリーディング争いに異変があって、この「おじゃ馬します!」では“乗れている若手騎手”を特集してきました。美浦の丸山元気騎手からスタートして、栗東の高倉稜騎手、川須栄彦騎手と続いて、最終回が田辺裕信騎手です!

田辺 :そうなんですね。えっでも、僕もう27歳ですよ(笑)。

赤見 :あっ、あんまり若手じゃない(笑)? でも、今の活躍はものすごいですから、この企画で突撃しないわけにはいかないです!! 毎年コンスタントに勝っていますが、今年は大ブレイクですね。過去最高の勝ち星で、6月には関東リーディングにも立ちました。

田辺 :いや、本当に分からないですね。どうなるかなんて。

赤見 :いやいや(笑)。デビュー10年目ですが、以前から「田辺騎手は巧い」という関係者の声をよく聞いていました。何がこの成績につながっている原因だと思います?

田辺 :原因? ……運(笑)?

赤見 :運だけじゃないですよ(笑)。成績を見ていくと、09年に初めて30勝超えの33勝、翌年が37勝、今年がもう50勝超えです(8月29日現在62勝)。

田辺 :そうですね。いつもこれくらい勝てればいいですよね。ただ、一昨年も僕としては「これくらい勝てればいいな」と思っていたんですよ。1年に30勝できたら不自由はないですし、一番いいポジションかなって。何て言うんですか、もちろんなりたくて騎手になったんですけど、「このレースに勝ちたい」とかそういうのはあんまりなくて。普通がいいと言いますか。

赤見 :じゃあ、精神的にとか乗り方とか、何か変わった部分というのは感じないですか?

田辺 :感じないですね。乗り方は、期待されている馬はそれなりの競馬をしないと納得してもらえないので、そういうのは意識しますけど、でも、それが成績につながっているわけではないですからね。良い馬に乗せてもらっている時にそういう乗り方をしなきゃって思うだけで、自分自身は何も変わってないです。

赤見 :何か、珍しいタイプのジョッキーですよね。先日小倉で騎乗されていましたが、全部関西の馬。小倉は関西がホームですから、関東の騎手でそれだけ馬が集まるのはすごいことです。関西馬の騎乗が増えたのは、去年の夏の福島で松田博資厩舎のアドマイヤマジンで勝ったことが1つのきっかけになっているような?

田辺 :そうですね。アドマイヤマジンで勝たせていただいて。でも、そこで急に関西馬が回ってきたわけではなくて。回ってくるようになったのは、昨年暮れの小倉あたりからなんですけどね。まあでも、やっぱり松田先生のところを乗せてもらうようになってから、新しく乗るようになった関西の厩舎は多いですね。松田厩舎で乗せてもらっているということが、多分、目立っているのかな?

赤見 :だって、松田厩舎の馬で続けて2勝したんですもんね(アドマイヤマジン:10/6/19、安達太良S、福島ダ1700m、タガノクリスエス:10/7/17、柳都S、新潟ダ1800m)。しかも、アドマイヤマジンは2年ぶりの勝利でしたからね。デビューした頃とは馬の質も変わってきましたか?

田辺 :デビューした頃は、あんまり走る馬に乗っていなかったですからね。でもやっぱり、騎乗馬の数をとにかく集めたくて、どんな馬でも入れていて。斤量の軽い馬でも全部乗っていたので、減量は苦しかったですよね。

赤見 :その頃って、大食いだった時ですもんね。そうやって馬集めの苦労もあって、それでもコンスタントに勝ち続けてきたのは、ご自身の工夫があったからかと思います。中舘英二騎手を負かすためにいろいろ考えたと?

田辺 :ああ。いやいや、そこまでものすごく深く考えていたわけじゃないですよ。「中舘さんの後ろに付いていけばいい」って目標にしたり、どの位置にいても「中舘さんがあそこにいるから、中舘さんを負かすにはもう動かなきゃだめだな」とか、そういう感じです。

赤見 :じゃあ、中舘さんのあの絶妙なペースが染み付いているわけですね。

田辺 :いや、自分が逃げたら、あのペースでは逃げられないですよ。

赤見 :あそこまで「逃げの騎手」ってなると、中舘さんが行ったら「あ、絶対この人が行くな」と思って、控える騎手もいますよね。

田辺 :そうそう。そういうことも出来るから、あの逃げがハマるんですよね。

赤見 :田辺騎手は“中団からの差し”というイメージが強いです。そういう競馬が好きなんですか?

田辺 :好きというか、どう考えても前に行った方が楽ですよ。まあ、競馬場にもよりますけど、ローカルだと後ろからでは届きにくいですし。だから、真ん中くらいにはいないと。

赤見 :田辺騎手の騎乗ですごいなと思うのが、内にいても、前が空きますよね。何で4コーナーで、いつも前が空くんですか?

田辺 :でも、たまに詰まりますよ(笑)。

赤見 :いやいや(笑)。でも、先ほどのアドマイヤマジンのレースもそうでしたけど、やっぱり「何でいつもあそこにいられるんだろう」と思って。

田辺 :癖は見ていますよ、ジョッキーの。あるんですよ、こう(視野が狭く)なっちゃう人とか。一生懸命になり過ぎて、「直線は外に出さないと」とかいろいろ考えているんだろうけど、逆にそうやって外に出てくれれば、そこが空くんですよね。

赤見 :ああ、確かに。

田辺 :それに4コーナーで一番後ろだったら、よっぽど脚を使わないと無理ですよね。

赤見 :あのコーナーリングはどう会得したんですか?

田辺 :ええっ、どうなんですかね? でも、外を回ったらタイムオーバーになっちゃうような馬に結構乗っていたので、それで内にいましたね。よく乗せていただいている久保田(貴士)先生からも「すぐ内に行け」とか「行った馬の後ろにいろ」って言われていましたので。それがだんだんと身に付いたんですかね。

【次週のお話は】
所属の小西一男厩舎と、開業時から手伝いをしている久保田貴士厩舎を中心に、日々の仕事をしている田辺騎手。

その久保田調教師は、大学在学時から全日本学生馬術選手権大会で3連覇を成し遂げた馬術の凄腕。その久保田厩舎の調教を手伝ううちに田辺騎手は、ある技術を身につけました。

その様子は、レース直前にも目にすることができるかもしれません。田辺騎手の活躍を支える、プロの技が垣間見えます。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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