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田辺裕信騎手インタビュー中編

  • 2011年09月05日(月) 12時00分
現在62勝(8月29日現在)で、再び関東リーディングに躍り出た田辺裕信騎手。毎週毎週勝ち鞍を量産する田辺騎手の騎乗技術。それは、自厩舎と並んでずっと調教を手伝っている久保田貴士厩舎にヒントがありました。<8/29.30に掲載したインタビューの続きです>

◆乗馬と関連させようと

赤見 :田辺騎手の代名詞とも言うべき「中団からの鮮やかな差し」ですが、重賞初制覇となった今年のアンタレスS(ゴルトブリッツ騎乗、11/4/24、京都ダ1800m)も、その通りで鮮やかでしたね。

田辺 :鮮やかでしたか?

赤見 :はい。「ザ・田辺騎手」というレースぶりでした。

田辺 :いや、あの時僕、風邪をひいていたんですよ。それで朝競馬場の救護室で薬をもらって飲んだんですけど、それがすごく眠くなる薬で。

赤見 :えっ、じゃあ意識朦朧とした中で、あの鮮やかな4コーナーの立ち回りを決めたんですか!? すごい…。これがデビュー10年目での悲願の重賞初制覇になったんですもんね。

田辺 :ありがとうございます。ん、でも、悲願ではなかったですね。勝てたことで周りの反応はやっぱり大きかったですけど、そのくらいでした。自分自身は普通でしたよ。

赤見 :「重賞を勝ててすごく嬉しい」みたいな感じではなかったんですか?

田辺 :もちろん嬉しかったですけど、その一頭、その一レースに縛られちゃうと、他が見えなくなっちゃいますので。自厩舎や久保田厩舎の毎日調教をしているような馬で、未勝利戦から勝ち上がっていっての重賞制覇だったらまた違うんでしょうけど、今回はポンっと良い馬に乗せていただいて勝てたものなので。嬉しい半分、結果を出すのが当たり前のような感じもありましたから。

赤見 :冷静ですね。あまり気持ちの上げ下げがないんですか??

田辺 :そうですね。競馬ではそんなにないです。

赤見 :じゃあ、去年の朝日杯FS(タガノロックオン騎乗、10/12/19、中山芝1600m)で、GIに初騎乗した時も?

田辺 :その時も全然。だって僕、馬場に入ってからすぐにポケットに行っちゃったんですよ。で、そこでずっと待っていました。だから“ワー”っていう歓声も聞こえなくて。

赤見 :そうだったんですか。でも、GIはパドックも人が多いじゃないですか。

田辺 :パドックって、乗ったかな? あっ、乗りました、乗りました。GIのパドックだと関係者の方も中に入るじゃないですか。その状況で、僕はどこにいていいのか分からなかったです。居場所がなくて、うろうろうろうろしていましたね。

赤見 :あはは(笑)。また時間も長いですしね。

田辺 :そうなんですよ。何を話していいかも分からなくて、ちょっと、大変な時間でした(笑)。

赤見 :やっぱり、田辺騎手は珍しいタイプですね(笑)。そんな田辺騎手が、何か今までで「これは嬉しかった!!」ってことはありますか?

田辺 :嬉しかったですか? レースを勝ったらいつも嬉しいですよ。そうですね…モルトグランデ(久保田厩舎)かな。あれはなかなかオープンで勝ち切れなかったので。重賞を使いたいのに賞金が加算されなくて、使えなかったんですよ。だから、福島民友C(10/10/24、福島芝1200m)を勝って賞金加算できたのは嬉しかったですね。

赤見 :重賞でもあと一歩のところまできていましたもんね。

田辺 :そうなんです。重賞でも同じくらい走れるのに、いつも入るか入らないかのギリギリで。「入れないかもしれないけど、乗りに行くか?」っていうこともよくあって。だから、賞金加算できたのがすごく嬉しかったです。

赤見 :久保田厩舎はずっと調教を手伝っている厩舎ですもんね。自厩舎と並んで、久保田厩舎も大きい存在ですよね。

田辺 :大きいですよね。バックアップもしてもらっていますからね。良い馬に乗せてもらっているし、馬主さんにも言ってくださっているみたいです。それは最近になってからですけどね。久保田厩舎が良い成績が出るようになってから。お互い、下のレベルから始めたわけですからね。

赤見 :久保田厩舎が開業初年度、田辺騎手がデビュー2年目の時からですよね。本当に一緒に上がって来たという感じですね。そうなると、ますますモルトグランデは楽しみですね。

田辺 :重賞を獲れればいいんですけどね。もう結構おじさんなので(笑)。

赤見 :いやいや、美浦の馬にがんばって欲しいですから。よろしくお願いします!!

田辺 :久保田先生に言ってください(笑)。

赤見 :はい(笑)。これは難しいかもしれないですけど、今考えている騎乗論というのはありますか?

田辺 :自分が考えている騎乗論? 分からないですけど、でもやっぱり、久保田厩舎を乗っているから、乗馬と関連させようとはしているかもしれないですね。馬の手前とか姿勢にはこだわるかもしれないです。

赤見 :おー。久保田先生は、全日本学生馬術選手権で3連覇しているほど、乗馬の達人なんですよね。

田辺 :そうです。久保田先生だけじゃなくて、スタッフの方もうまいですからね。乗馬のことになると僕は素人なので、いろいろ聞いたりします。

赤見 :具体的には?

田辺 :具体的に言うと、“ひきつけて離す”って分かります? 収縮させて、最後の直線でバーッと行かせるようなイメージです。乗馬で障害を飛ぶ前って、結構詰めるんですよね。自分の脚を使って馬を推進はさせるんですけど、「まだ行くな」という合図を出して、1回馬を起こして、そこでパッと離して飛ばせるじゃないですか。そんなイメージです。

赤見 :じゃあ、4コーナーで収縮しているということですか?

田辺 :4コーナーである程度踏んで行って、ゴーサインを出しつつ、「まだ行くな」って。

赤見 :アクセルを踏みながら、「まだだよ、まだだよ」ってちょっとブレーキをしつつ、馬のパワーを溜めていく?

田辺 :そうですね。それが出来る馬と出来ない馬がいるんですけどね。あとはゲートの中の姿勢と、ゲートに入れる前の運動ですね。返し馬の後にちょこちょこやったりしているんですよ。回したり、後退させたり。

赤見 :それは体を?

田辺 :体をほぐすのもありますし、1歩目で躓かないようにと。後退は、普段の調教でやっているんです。追い切りの次の日に角馬場でほぐすような感じでやっていて。それによって走る方に行くかどうかは分からないですけど、やって悪いこととは思わないので、やるようにしています。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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