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田中清隆調教師インタビュー前編

  • 2011年09月13日(火) 12時00分
阪神JF2着、桜花賞2着、オークス3着。世代トップクラスながら、念願のタイトルにはあと一歩のホエールキャプチャ。秋華賞こそは何としても! 管理する田中清隆調教師に、春クラシックの振り返りと秋への意気込みを伺います。

◆オルフェーヴルにも勝利

赤見 :デビューから一度も馬券圏内を外していないという、本当に真面目なホエールキャプチャですが、出会いのきっかけは何だったのですか?

田中 :オーナー(嶋田賢氏)が、千代田牧場さんの当歳の情報を何かでご覧になったんですね。「面白そうな馬がいるので見てくれないか」ということで、私が見に行ったんですよ。そうしたら確かに馬っぷりが良くて、雰囲気もあったものですからね。

赤見 :先生も「いいな」と思われたんですね。

田中 :ええ。やはり走る馬というのは変にジタバタしないし、ポーズも決まるんです。それと背中の線もすごく良くて、一目で「良い馬ですよ」という報告をしたんですけどね。それですぐ決められたみたいです。

赤見 :2歳になって美浦に入厩した時は、どんな成長をしてきていましたか?

田中 :いやそれが、そのままで。普通は背が伸びたり脚が長くなったりしますので、何回か体型が崩れるんですよ。でもこの馬は、全体が平均に成長してくれたので、2歳まで体型を保ってくれたんです。そういう馬は珍しいんですけどね。

赤見 :その辺りからすでに大物感があったんですね。実際に調教を進めていって、手応えは感じられましたか?

田中 :うーん、最初は目立たなかったんです。まだトモが緩くて、普段の調教はそんなに目立つようなものではなかったんですが、坂路で速いところをやり出したら動きがすごく良くて。「おっ」というところがあったものですから、「あ、これは走りそうだな」と。

赤見 :そうなるとデビュー戦から期待を持ちますね。新馬戦は7月の函館(10/7/3、函館芝1200m、2着)でしたが、いきなりインパクトのあるレースをしましたよね。

田中 :そうですね。

赤見 :スタートは遅れ気味でしたが、内からスルスル追いついて、最後は馬群を割って2着。新馬らしからぬ根性だなと思ったのですが、先生の評価はいかがでしたか?

田中 :いや、勝てるかなと思っていたんですよ。それこそ、新馬勝ちできることは年に何回もないんですけど、割と確信があったんですね。それがまさか、あんなにゲートで遅れるとは思わなかったので。ちょっとがっかりというか、情けなかったですね。

赤見 :いい内容だったというより、むしろ悔しさの方が?

田中 :そうです。勝つつもりでいましたのでね。

赤見 :じゃあ中1週で走った2戦目(10/7/17、函館芝1200m)で勝ったのは、順当ということなんですね。そして注目の3戦目、芙蓉S(10/10/3、中山芝1600m、1着)ですが、ここで負かした相手はオルフェーヴル。ダービー馬に勝ちました!

田中 :そうですね(笑)。後の二冠馬になる馬ですけれど、その時はもちろん誰も分からなかったわけですけどね(笑)。

赤見 :はい(笑)。このレース、ホエールキャプチャは初めてハナに行って、そのまま逃げ切り。直線でもオルフェーヴルの猛追を。

田中 :ええ、しのぎましたね。後から見てみればね、「やはり強いんだな」と思いました。でもあの時は、まさかハナに行くとは思わなかったので、「大丈夫かな?」って心配して見ていたんです。

赤見 :それまでの展開とはガラッと変わりましたもんね。そう考えると後ろから行ったりハナに行ったり、いろいろなレースをしてきていますよね。

田中 :要するにスタート次第なんですよ。この時はスタートを出てハナに行って勝ったんですけど、出遅れもしますし。

赤見 :スタートは何か気になるところがあるんですか?

田中 :やはり、ちょっとイラッとするんでしょうね。馬がね。

赤見 :早く出たい?

田中 :んー、それもありますし、結構競馬になると燃えるんですよ。

赤見 :輪乗りの時もなだめるのが大変だって聞きました。気性の強さがあるんですね。

田中 :この辺りから徐々に出てきたんですね。最初の頃は割とのんびりしていたんですよ。うるさいようなところもかかるようなところもなくて、大人しかったんですけどね。あとこの頃、馬がガラッと変わったんです。腰がパンっとしましてね。

赤見 :気性はちょっとカリカリしてきたけど、体の成長があったんですね。そして、ファンタジーS(10/11/6、京都芝1400m、3着)で初めて重賞挑戦。初めて関西圏に遠征したレースでもありましたが、この時はまたスタートで遅れてしまって…。それでも、最後はものすごい脚で差してきましたね。

田中 :脚を余しちゃったんですね。2回ほど直線で挟まる不利もありましたし。タラレバですれど、勝っていたレースだと思います。ジョッキーも1回乗っていれば、どの程度の脚が使えるか把握していたと思うんですけれど、(武)豊君でもテン乗りだったので半信半疑だったと思うんですよね。

赤見 :最初のお話にもありましたけど、同じジョッキーに乗ってもらいたいというのはそういうのもあるんですね。次の阪神JF(10/12/12、阪神芝1600m、2着)からは、現在の主戦・池添謙一騎手になりました。池添騎手に依頼されたのは、どんな経緯があったんですか?

田中 :最初は関東のジョッキーに頼もうと思ったんです。それがうまくいかなくて、それで関西のジョッキーに。たまたま池添君が乗れるということでお願いしたんです。

赤見 :これもめぐり会わせですね。ホエールキャプチャは今でも栗東滞在することが多いですが、このファンタジーSが終わった後から阪神JFまでも栗東にいたんですよね?

田中 :そうですね。やはり輸送のリスクがないので。牝馬ですので、そこを考えて決めました。

赤見 :やっぱりこの頃の牝馬にとって、長距離輸送というのは?

田中 :京都までは割と大丈夫なんですよ。でも京都から先がね、堪えるのは堪えるんです。その後の数時間が堪えるんですね。

赤見 :同じ関西でも、京都と阪神では違うんですか。栗東の環境に馴染むまで、時間がかかったということは?

田中 :最初の2日ぐらいですね。でも、その2日間だけですね。飼い葉を食べてくれる馬なので、その点が心強いというか心配がないんです。

赤見 :そう言えば、以前追い切りの後に馬を見せていただいたら、ガブガブお水を飲んでいて。担当の蛯名厩務員が「ご飯は食べるし、お水も飲むからいいんだよ」っておっしゃっていました。牝馬ではなかなか珍しいですよね。

田中 :そうですね。やはりGIで勝ち負けする馬というのは、ちょっと繊細なところがあることが多いのでね。そういうところが、この馬はかなり心強いです。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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